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H.S.D
【学園物 恋愛小説】

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H.S.D*0*-2

大体予想はしてたけど、休み時間になると転校生の周りにはクラスの女子が集まった。そればかりか、隣のクラスからも二年生も一年生も、噂の『イケメン転校生』を見に、扉の周りに群がっていた。
だけどあたしはその光景を自分の席に座り、横目で見ているだけだった。そんなあたしの耳に
「ここ、俺たちのクラスだよな…」
「肩身狭ぇよ…」
「みぃんな、転校生に盗られるんだろうな…」
という悲しき負け犬の遠吠えが聞こえる。
教室の隅に追いやられ小さくなる負け犬たちに心の中でエールを送ると、あたしは周りの声が聞こえなくなるまでMDプレイヤーの音量を上げた。


何だかんだ言っても、所詮人の本性がバレるのは時間の問題。転校して来てから二週間で、矢上の人気は地に落ちた。そして、今度はあたしがクラスの女子に囲まれるハメになる。
「音羽ぁ〜!まじ、アイツ何とかしてよっ!!」
「思い出すだけで…ぁあ〜!ムカつくぅぅ!」
「死刑だ死刑!!音羽の力で死刑台に送り届けてやりなさいっ」
前後左右から聞こえる声にあたしは一言
「あたし関係無いもん」
と正論を唱える。
すると好美があたしの頭をバシッと叩いた。
「よくもまぁ、ウチらの被害状況を知っててそんな言葉が出てくるモンだね」
だって自業自得じゃん、と言いたくなるのをぐっと堪える。
「いい?キョコちゃんは15万、みっちょんは10万、エー子は8万、その他何かしらの理由で貢がされてんの!ちぃちゃんと鮎子サンはブランド物の財布買ってやったらしいし…」
好美の熱弁を聞き、既に泣きだしている子までいる始末。
「だから!今日の席替え、音羽が隣になるんだからね?」
「は?」
「今日のホームルーム、席替えなんだって♪ほら、ウチらのクラスの席替えって基本は適当なくせして、男女で隣同士なんなきゃいけないじゃん」
そう、我がクラスの担任、穂積 文子先生は男女仲良くをモットーにしている若い先生で、席替えの際は必ず男女を隣同士にさせるという小学生みたいなことをする。まぁ、その代わりそれさえ守れば席はどこに座ろうと生徒任せなので、文句はないけど。
しかし、あたしが矢上の隣に座る義理はない。
「ヤァダよ。あたしだってアイツ嫌いだもん。隣になるなんて自殺するようなもんじゃんっ。あたし自己破産したくないよ」
「じゃあ聞くけど、音羽はアイツに何された?」
好美は腕を組み、あたしを見下す。
「それは…」
答えられる訳がない。何せ近付いてすらいないんだから。
「ホゥラね!ちなみに言っておくけど、あたしだってジュース奢ったんだからね。よって、音羽は瑞樹の隣の席に決定!」
「やだよ、ヤダ。絶対ヤダ!何であたしが」
「音羽…」
急に好美が真剣な声であたしの言葉を遮った。
「音羽しかいないんだよ。音羽は自分をしっかり持ってるから、人に流されたりしないから、音羽にしか頼れないんだよ。ウチらは簡単に流されちゃう…。音羽みたく強くないもん…だから、お願いっ!!」
好美を始めとした、たくさんの縋るような瞳があたしを見つめていた。穴が開くんじゃないかと思うほど、強く真剣な視線。とてもじゃないけど、断れる雰囲気じゃない。
あたしは短いため息を一つ吐いた。
「…分かった。あたしがアイツを隣で見張っとくから、みんなは健全な高校生活送りなさい」
意味不明な言葉で皆を慰める。
かくして、あたしは五時間目のホームルームでアイツの隣に渋々座ることになった。窓際の一番後ろ、本当に窓に面した席でヤツは気持ち良さそうに寝息を立て始めた。
あたしに見向きもしないので、あたしに興味はないのかよ、と心の中で突っ込んでみる。
つまらない。
唯一の救いはあたしの前の席に好美が座ってくれたことだ。ジュース一本奢ったくらいだし当たり前か…。
新しい席を見回していると、おもむろに学級委員長の二人が前に出ていった。


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