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熱帯魚の躾方
【SM 官能小説】

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アクアリウム菰田-1

 都心から車で15分ほど、住宅地にあるアクアリウム菰田は私が経営する熱帯魚を主に扱うペットショップだ。両開きの硝子戸を開けると左右の大きな水槽に囲まれた店内に入る。入って左側に海水魚、右側に淡水魚、真ん中の島になっているスペースには流行りのメダカや金魚の水槽がある。奥に入ると10席ほどのカフェスペースがある。突き当りの左角にレジと事務室とトイレ、右側にはグッズなどが並んでいる。
 脱サラしショップを経営し始めてもう十二年になる。土地付き物件として購入し、畑だったスペースにショップを建てた。隣には二階建ての自宅がある。サラリーマン時代にメダカの飼育にハマり、他種交配を重ねて頭部が淡いピンク色、側線部が薄いブルーで尾鰭にかけてラベンダー色のグラデーションになっている。素晴らしく発色の綺麗なメダカ「サクラバイオレット」が産まれた。奇跡のメダカと呼ばれ、業界で話題となり専門誌の表紙にもなった。アマチュアブリーダーからプロブリーダーとなり、毎号のコラムを執筆するに至った。発表から一週間もしないうちに、買付け業者から問い合わせが殺到し、半年後には取引が始まって、随時養殖するようになったことがきっかけで、このショップを始めた。売り上げの大半はサクラバイオレットに頼っているが、淡水魚をメインに売り上げは順調に伸びている。近年はメダカだけでなく、ディスカスやアロワナなど、中型以上の淡水魚の交配にも挑んでいるが中々難しい。

 ショップを始めたのは十五年前に妻梨花が他界し、幼い娘の夏希を育てるためでもあった。会社勤めをしながら、三歳の娘の面倒をみるのはあまりにも難しかった。朝6時には起きて洗濯と朝食、通勤途中で幼稚園に夏希を預け、会社に通う。営業課長という最も重い役職に就いていたのもあって、帰りが遅くなりお迎えを仲良くなった近所のママさんにお願いしたり、時には夕食まで世話になることもあった。体力的にも精神的にも限界を感じ始め、趣味で飼っていたメダカの品種改良に没頭し、成功したことから、思い切ってアクアリウム菰田を始めた。
 脱サラ後の毎日は新たな商売を始める苦労も多々あったが、好きなことを仕事にしたから楽しみのほうが大きかった。自宅での自営に切り替えて日々の生活も大きく変わり、娘と二人の時間が増え、ストレスは無くなった。小学校を卒業するまで、毎日一緒に風呂に入ってくれるほど夏希は私に懐いてくれた。魚を観るのも好きで餌やりや掃除、勿論家事もよく手伝ってくれた。春と秋にはキャンプにも行った。やがて中学に上がる頃、反抗期からだろうか、娘と口論することも徐々に増え、理解してやることが難しくなったが、高校に上がり大学入試を目指す頃から再び家事や店を手伝ってくれるようになり、仲の良い父娘に戻れた。妻に似たのか頭脳明晰で総括的、高校では生徒会の副会長まで務めた。三カ国同時通訳を夢見る夏希は海外留学を希望し、心配で仕方なくて反対したが根負けして、現在はアメリカのワシントンにある大学へ通っている。遠距離になって淋しくはなったが、二三日に一回はリモートで話をしている。顔を見ながら話せるのは非常に有り難い。最近は、レストランでのアルバイトも始めたようで、仲の良い友達も沢山出来たようだ。卒業旅行は皆で日本を旅するらしい。しっかり者の夏希のことだから心配はしていないが、身近に居ないのは親としては淋しいものだ。

 独りになってしまうとついついだらしなくなってしまいそうだが、沢山の魚達の世話がそうはさせてくれない。販売が主な仕事だが、清掃から餌やり、病気の魚の隔離と治療など雑務も多い。空いた時間は、新種交配の為の研究にあてている。毎日のルーティンな仕事に飽きてしまいそうだが、水槽の世界に生きる魚達が癒やしてくれる。飼育期間が長い魚など、懐いてくれる魚もいる。特にベタなどは人懐っこい。ベタは「闘魚」と言われるだけあって同属同士だと命を削りあうほど激しい喧嘩をするが、人には懐きやすい。一尾ずつ分けた小さな水槽の前に立つとおちょぼ口をパクパクさせてこちらに寄ってくる。例え魚とはいえ、懐かれると人間と同じように可愛いものだ。


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