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魔女の住む館
【ファンタジー 官能小説】

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魔女の住む館-14

5月8日

屋敷にこの子を置いていくわけにもいかない。魔の餌食となるだけだ。そうでなくても、魔女の子だと知っている人に見つかれば殺されるだろう。
≪やれやれ、私も優しくなったものだ≫ 女の子の手を引いてやった。
屋敷を出ると、ベールがわたしを呼び止めた。
「その子は置いて行ってもらおう」
「母親はこの子の命乞いをしていたのだ」振り返って宣言する。ベールの正式名がベールフェゴルを冠する名前なら厄介な話しだ。
「おまえにはそうとれたとしても、我はそう解釈しない」
「おまえはこの親子に手を出してはいけないと言われているはずだ。
『意味を読め』とは、術者の言う言葉の意味を捕らえよと言うことだ。おまえの解釈を優先させよということではない。
おまえが愚かでない限り、わかりきったことではないか。わざと誤解したふりをし、全てを得ようとするな。あきらめよ、戦うだけが能ではなかろう」
「戦うというなら。相手になろう」
「私はおまえの依頼主からこの子を守るよう、さらに依頼を受けた。だが、おまえと戦えとは言われていない。どうだ、話し合わないか」
「何を考える」
「なぜルキナに最後の快楽を与えた。死ぬことを悔やませたいならもっとやり方があるのを知らぬわけがない。なぜ満足を与えた。
マイアもそうだ、なぜ最後に突き入れてやった。
なぜフローラと執事長を一緒にしてやった。
言いたくはないが、おまえは優しい。
私はグシオンを召喚し仲立ちをさせることもできる」
「ほう、戦わぬのか」
「戦って何が楽しい? 戦いは勝っても消耗する。私好みではない」
「ものぐさな奴め」
「私とこの子が満足に生きているなら、初潮をむかえる日まで、新月の夜ごとにこの子をおまえに供えよう」
「思うところはそれだけか」
「おまえは過度に母親を手に入れた、そのことは問わない。この子はあきらめろ」
「なるほど」
「私は魔を魔物とは思っていない。むろん、すべてが誠実だとも思っていないが、この子の血の一部をもって私の質問に答えるくらいはできるだろう。ことによってはもっと長い付き合いをしてもいい」絶対に目は離さない。
「然り」
「誓約書は私が用意しよう。次の新月の夜。供え物と共に呼び出そう。それまではあらゆる手出しを控えろ。ここにその誓約書はないが、第一歩として口での協定だ。どうだ」
「心しておけ、我も人を信用しない。が、次の新月まではよかろう」
なんとか手打ちができた。
魔が去ろうとして、「ところで、その子の皮膚に仕込んだ呪いを、なぜおまえはさわっても腐らないと見切っている」
「むろん、母親も大丈夫だった。この子に害をなす者への呪いだろう。それは私ではない。もう祓ったか」
「然り」おもしろそうに魔が消えた。
いまさらに汗が噴き出してくる。私はそっとヒナと握っていた手をぬぐった。
私の虚勢は見破られている。戦って勝てる相手ではなかったかもしれない。手間だと思ってくれたのであればそれで満足だ。
子どもは今の話の意味も分からず、私が動くのを待っていた。
≪知らない方が幸福なのかもしれんな。ここには血と腐臭が染みついてしまっている≫
土地を出た。
汗ばむ子の手が、血に濡れて感じた。


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