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安倍川貴菜子の日常
【コメディ 恋愛小説】

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安倍川貴菜子の日常(4)-6

そしてその場で若菜を見送った護はそのまま空気の抜けた風船の様にへたり込み「余計なスケジュールがまた一つ増えちまった…」と呟くと盛大なため息をついた。
昼休みも終わりに近付くと護が少し疲れた表情をして教室に戻ってきた。
圭吾はニヤニヤしながら席に戻った護に話しかけてきたのだ。護はそんな圭吾の態度を不審に思ったが彼には彼なりにそういった表情になる理由があった。
実は護が教室に戻る少し前、若菜が教室に戻ってきたのだがあからさまに上機嫌な様子で貴菜子が話しかけても嬉しそうに笑うだけで話をほとんど聞いてないといった状態だった。
そして圭吾は妹の若菜が護に想いを寄せている事を知っていたので、若菜の表情と護の表情を見て二人に何かあった事を悟ったのである。
「よう護、若菜と何かあったのか?若菜のお兄様である俺に事の次第を話してみ」
「別にたいした事じゃねーよ。次の日曜に買い物の約束をさせられただけだ」
護の言葉に圭吾はニヤリと笑うと耳元で「お前が俺の義弟になる日も近いかぁ。」と囁いた。
「なっ!?」と護が声を上げようとしたのを圭吾は手で護の口を塞ぐと更に「幼馴染のお前が若菜に手を出すのを止めはしないがゴムはちゃんと使えよ」と付け加えると大笑いしながら自分の席に逃げていったのだ。
「あンのバカが…」と護が毒づきため息をつくと同時に午後の最初の授業の担当教師が教室に入ってきてそのまま授業が開始された。
 
それからいつもの様に何事もなく時間は進み、帰りのホームルームが終わると部活に行く生徒や帰り支度をする生徒で教室はざわついていた。
「…安倍川、話があるんだけどちょっといいか?」
帰り支度をする貴菜子に声をかけてきたのは護だった。
はっきりと前もって言っておくが護がこの教室で若菜以外の女の子に自分から声をかけるのはレアケースなのだ。
この出来事に声をかけられた貴菜子だけでなくクラスのみんなが驚いた。
実際、護のクラスメイトからの印象は無愛想若しくは堅物といった印象であり普通ならクラスで浮いてしまう存在なのだが、護の傍には麻生兄妹がおりこの二人が護とクラスメイトとの間の緩衝材の役割を果たしているのでクラスメイトとして護は取っ付き難いが嫌悪する存在でないというものだった。
で、そんな護と声をかけられた貴菜子を固唾を呑んで見守るクラスメイト達の視線に居心地の悪さを感じた護は「昨日の公園で待ってる」と貴菜子にだけ聞こえる様に伝えると相変わらずの無表情で教室を出て行ったのだった。
そして、護が教室を出て貴菜子が取り残された状態になるとその後がすごかった。
教室に残っていた女子が貴菜子の元に殺到したのだ。「神野くんと付き合ってるの?」とか「告白?告白されちゃうの?貴菜子」とか様々な事を言われ対応しくれない貴菜子が混乱してる姿とは別に騒ぎの輪から少し離れたところにいた若菜の心中は複雑だった。
「護くんがクラスメイトと仲良くしてくれるのは嬉しいけどなんでキナちゃんなの?」
誰にも聞こえない様に呟く若菜。
学院に入学して以来一番仲の良い友人である貴菜子と小さい頃から想いを寄せていた護。
若菜にとってとても大事な二人であり、その二人が知り合う事には大いに喜ぶべきなのだが、反面素直に喜べない自分の気持ちに気付いた若菜の表情は曇り自己嫌悪に陥った。
そしてクラスメイトからの質問責めにもみくちゃにされていた貴菜子は必死になって囲みから抜けると大急ぎで護との待ち合わせをしてる公園へと急ぐのだった。


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