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安倍川貴菜子の日常
【コメディ 恋愛小説】

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安倍川貴菜子の日常(4)-3

「ねえ、神野くん。ちょっとお願いがあるんだけど良いかな?」
「ん、何?俺に出来る事なら良いんだけど」
意地の悪そうな笑みで「ほーれほれ」と言いながらエドの頬を引っ張る護に貴菜子は意を決した様に話しかける。
しかしその直後、やはり恥ずかしいのか貴菜子は護から視線を逸らし手をもじもじしながら次の言葉を言いあぐねていた。
普段の護なら今の貴菜子みたいな態度に少なくともイライラさせるものがあるのだったが、今は12月であり護はサンタモードに移行してる事もあって気持ちに余裕があるせいか少しだけ優しげな笑顔になり貴菜子の次の言葉を待つ事にした。
だが、その優しげな笑顔とは別にエドの頬を引っ張るその手は緩められる事はなかった。
そんな感じで気長に様子を見守る事にした護に気を使ったのかチョコが貴菜子に声をかけ応援すると貴菜子は再び護に視線を向け言う事を躊躇っていた言葉を護に伝えた。
「じ、神野くん!私にも神野くんのお手伝いをさせてくれませんかっ」
「……はい!?」
その言葉は護には意外なものだった。
貴菜子にしてみれば護の祖父でありサンタクロースの幸一郎から「護を助けてやって欲しい」と頼まれていたのでストレートに手伝いたいと護に申し出たのだったが、当の護にしてみれば貴菜子の言葉は青天の霹靂だったのだ。
そんな貴菜子の言葉に目を丸くした護は今まで頬を引っ張っていたエドを落としてしまうとそのまま硬直した。

えーっと、安倍川は俺の手伝いをしたいって言ったんだよなぁ。
それってサンタの仕事の事でOKだと思うんだよね、うん。
でも、安倍川と俺ってクラスメイトなんだけど今まで大して言葉を交わした事もないんだよな。
まあ、さっき聞いた安倍川と爺さんの経緯を考えると爺さんが何かを企んでるのは間違いないだろう。
爺さんの考えは別として、安倍川自身も使い魔を連れているんだから一般人って考えなければ仕事の手伝いをさせる事は協会的にもOKな訳かぁ…。
でもって、安倍川の能力はさっき分かったから良いとして、安倍川が支部長である爺さんの許可を貰ってるんならクリスマスまでの準備を彼女に手伝ってもらえば俺も楽か……な?

硬直した護が脳内でそんな事を考えている間、貴菜子は護の事を不安そうな顔で見つめていた。
この間、暫しの沈黙が流れたのだったが、その沈黙を破ったのは今まで引っ張られていた頬を痛そうに擦っているエドだった。
「なあマスター、いーんじゃねーか。貴菜子ちゃんも支部長様から依頼されてる訳だしバイトを雇ったと思って手伝ってもらえよ」
エドが護の事をマスター、幸一郎の事を支部長と呼ぶ時は大抵真面目な時の呼び方なので、我に返った護はエドの言葉に真面目に返答する事にした。
「バイトを雇うってなぁ…。まあ、これから忙しくなるから手伝ってくれるのは有難いんだけど本当に大丈夫なのか?」
護はサンタの業務規約にある『守秘義務の徹底』という項目を思い出しエドに尋ねると、エドは護の制服のポケットから携帯を取り出してもらい、それを開いて渡してもらうと自分の身体と大差ない大きさの端末をぎこちなくいじり何処かへ電話をかけ始めたのだった。


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