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願い
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願い-2

「お前は…北川夏輝と言ったかな?先ほどの税の話は無しにしてやろう。」
夏輝はうなだれていたが顔を上げ男の方を見た。
「ほっ、本当ですか!?」
「まぁ無い金を取ろうとしても出てこないものは仕方ないだろうしなぁ〜。しかし!有るものはしっかりと出してもらうぞ?」
そう言うと男は手を挙げた。その合図と共に残りの2人が春菜の腕を無理矢理引っ張った。
「いや〜っ!!やめてください!離してっ!!」
必死に抵抗する春菜だが、腕を引っ張っていた男の一人から催眠ガスを掛けられ次第に体中の力が抜けていった。
「待ってください!!それだけは…春菜だけは勘弁してください!他の事ならなんでもします!だから春菜を連れて行かないでください!!」
夏輝は無我夢中で男に叫び続けたが、男達は春菜を連れて車で行ってしまった。
「春菜ぁ〜!!春菜…。はるっ…なっ…。」
夏輝は膝を落として地面を叩きながら泣いていた。周りで畑仕事をしていた人達も一部始終を見ていたので、中には泣いている人の姿もあった。
「なんでなんだよぉ〜!政府の人間なら何をやってもいいのかよ!!何をやっても許されるのかよ!!」
夏輝は周りの人達に聞こえるくらいの大きな声で泣き叫んだ。

数日後、春菜は夏輝のいる小屋に帰って来たが着ていた服はボロボロになっており、なにより春菜自身の目には以前の様な光りは無かった。まるで魂の抜けた人間の形をした人形の様であった。

「くそっ!!税の代わりに春菜を連れて行くなんて!あいつらのやってる事は人身売買と変わらないじゃねーかよ!!」
夏輝は悔やんでも悔やみきれなかった。春菜を守りきれなかった事、自分の無力さ…。しばらくして夏輝は春菜に話し掛けた。
「春菜…、もぅここから出よう。日本にこのままいても幸せな生活はいつになっても出来やしないよ。」
その言葉に反応して春菜は小さく頷いた。それから夏輝は旅仕度を始めナイフ、ライター、そして3日分の食糧を持って小屋を出た。
小屋を出ると昔から付き合いのある佐藤に声を掛けられ、2人の足は止まった。
「夏輝君、そんな荷物を持ってどこに行くつもりだね?畑仕事はいいのかい?」
夏輝は春菜の手を握り締め佐藤の方へ歩み寄った。
「佐藤さん…。僕たち、ここを出ます。このまま畑仕事を続けても本当の幸せなんて手に入りません。だから…」
夏輝の言葉に佐藤は驚いた表情で夏輝に言い寄った。
「夏輝君、これからどこに行くつもりだね?どこに行っても同じことの繰り返しなんだよ?それに今回の春菜ちゃんの件は…。」
佐藤は濁った表情で春菜の方を見て再び夏輝の方を見た。
「春菜ちゃんが生きて帰って来ただけでもいいじゃないか。噂によれば戦争に負けた日本は勝った国々に対して多額の賠償金を払いきれずに人でそれを補ってるそうじゃないか。本来なら春菜ちゃんは帰って来ないはずだったんだよ…。」
夏輝は佐藤の話を聞きながら顔を下に背けた。
「それにここに残った俺達はどうすればいいんだ?またあの男達が来れば今度は俺達が夏輝君達の税まで払わなきゃいけなくなる。そうなればこの村は本当に終わりだよ…。夏輝君、考え直してくれないかね?」
佐藤は深刻な顔つきでゆっくりと夏輝に頼み込んだが、夏輝の気持ちは動かなかった。
「佐藤さん…、ごめんなさい。僕たちはもぅここを出ると決めたんです。」
村の人達のことも気になっていたが、今はそんなことを考える余裕など夏輝には無かった。
「それじゃあ俺達は行きます。佐藤さん…今までお世話になりました。お元気で…」
夏輝と春菜は佐藤に頭を下げると佐藤に背を向け再び歩き出した。


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