投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

女らしく
【コメディ 恋愛小説】

女らしくの最初へ 女らしく 100 女らしく 102 女らしくの最後へ

女らしく【番外02】『俺と彩と稲荷寿司』-3

その途端、

「すまなかった…」

有り得ないことだった。こいつは急に謝った。

「な、何謝ってんだ?」

こいつはこんな風に謝ることなんて一切無かった。

「名が無いということはお前は呼ばれることが無かった…つまり家族がいないということだろ……」

それは同情や哀れみではなく、本心からの深い悲しみ…
そんな表情を見ていると何故かこっちの胸が痛む。

「私は各地で家族のいない者達を見てきた…
飢饉や戦乱…愛すべき者を失った者達を見ることは出来ても、救うことは出来なかった……私も親を戦で亡くした…」

こいつの悲しみの表情は尚も俺の胸を締め付ける。

「だから…すまなかった…」

ギュウギュウと胸の奥が軋む。

「なら…お前が名前つけてくれよ…そしたら、家族になれる」

その言葉に急に悲しみから、きょとんとした顔に変わった。

「それは私と夫婦になりたいと…」
「ち、違う!!」
「冗談だ♪」

ニヤリと楽しそうに笑った。

からかわれたからか、それとも夫婦なんて言葉が出てきたせいか、俺の心の臓は早鐘の様に打ち出す。

「それはさておき…名はどうするか…」

ふと、自分の膝の上に視線を落とし、すぐに満面の笑みで言った。

「稲荷寿司っ♪」

一瞬…なんだか分からなかった…

いなりづし?なんだそれ?

「この食い物の名だ♪ほれ、食ろうてみろ♪」

心を読んだみたいに甘辛い匂いを放つ茶色の塊を差し出した。

恐る恐る一口囓る。

「…うめぇ……」

匂いと同じく、油揚げの甘辛さと爽やかな米が口に広がる。
油揚げがこんなに美味いなんて知らなかった。

「そうか!ならもっと食っていいぞ!私の手作りだ!」

その後、彩の持ってきた稲荷寿司の半分以上を平らげ、気付いた。

「って俺は食い物と同じ名前か!!」

畜生やられた…

「やっと気付いたか♪別に美味かったのだから問題なかろう?稲荷寿司♪」

…美味かったけど……
他の名前は無いのか?


女らしくの最初へ 女らしく 100 女らしく 102 女らしくの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前