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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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混沌とした世界(中編)-4

「盗賊の腕も売れたらいいのに」
「使い道ないじゃないですか。邸宅の玄関に、花瓶に突っ込んで飾るわけにもいきませんよ」

武器商人ヴァリアンと傭兵ザルレーはとても気が合った。
ガルドとソフィアを酒場で見かけた噂を酒場の店員から聞き出した時は、ふたりで酒を乾杯して喜んだ。
しかし、もう滞在していないようだとわかると、以外にもヴァリアンのほうが落ち込みは激しかった。

「ヴァリアン、そんなにガルドを気に入ったのですか?」
「あんな生きてる武器みたいな男は、他にいない」
「ヴァリアン、ならば私の指や腕、身体はどうですか?」

チャクラム使いのザルレーの指はしなやかで長く、女性の手のようである。顔立ちも女性的で、声も優しい。ザルレーは女装をすれば、男性だと気づかれないだろう。

「私はね、自分の容姿は好きではないのですよ。女性と思われたり、女性ならと言われてきましたから」
「そうかな、こんな立派な逸物がある女なんていないだろう?」
「はぅっ、んああっ!」

シャンリーがこの恋人同士になったふたりを見つけたら、蛇神のナイフで殺そうとしたかもしれない。
肉欲と退廃の都に、男性の同性愛者がまぎれこんで、愛し合っている。

奴隷商人にまぎれこんでいるニルスとエイミーは、奴隷市場が再開されたので、ロンダール伯爵の命令で、バーデルの都の様子を報告するために訪れていた。

「うわっ、賭博場が潰れてる!」

ニルスとエイミーにとって賭博場は大勝負をしただけでなく、伴侶になった思い出もある場所なので、ふたりは手をつないで、肩を落として賭博場だった瓦礫の山から離れた。

「どうやら、遊郭のほうは火災で焼けてしまって、焼け跡になったまま整備も進んでいないようです」
「行かないでおこう」
「ええ、思っていたよりもひどいです」

エイミーは牝の指輪の呪力で、障気にあてられることはない。しかし、遊郭の焼け跡に行ったら、焼け死んだ客たちや遊女たちの最後の記憶を感じ取ってしまうかもしれなかった。
ひどいです、というのは感応力がある者が近づいたら、煙を吸い込んでしまったように気絶したり、臭気を嗅いでしまった感覚にとらわれ吐いたりするという意味であった。
以前にシャンリーが虐殺を行ったあと、ザイフェルトか焼け跡になったバーデルの都を訪れた話を聞かせた時、ヘレーネが光景や臭いを感じたのと同じような感覚である。

バーデルの都の酒場、かつて今はブラウエル伯爵領のレルンブラエの街の酒場の女店主ミランダが経営していたが、シャンリーの虐殺で剣士カルヴィーノと避難して空きとなり、地下倉庫に商人ロイドが避難して隠れていた建物は、地震にも倒壊せずに、今は経営者と店名が変わったが酒場として使われている。
闇商人エラルド。武器商人ヴァリアンと傭兵ザルレー。奴隷商人の許可証をロンダール伯爵から渡されていてバーデルの都の状況を偵察しているニルスとエイミー。全員が同じ夜、酒場に食事や晩酌の為に集まっていた。

「おかげさまで、手持ちの在庫を売り切る事ができましたよ」
「それは良かったですな」

闇商人エラルドに金を払い、闇市が開かれている露店を確保してもらい、武器商人ヴァリアンは商売をしていた。
闇商人エラルドは、武器商人ヴァリアンの隣にいる傭兵ザルレーが、ヴァリアンの情人だと気づいていた。
男性の同性愛者の直感みたいなもので、雰囲気でわかる。他にも同性愛者の傾向がある者もわかる。闇商人エラルドがこの酒場に足を運ぶのは、盗賊ビリーと出会った酒場だからである。
ちなみに酒場の店主も、男性の同性愛者である。
ニルスやエイミーは、何となく他の客たちから観察されているような視線を感じていた。
盗賊たちや、闇市で商売している商人たちの、男性の同性愛者が集まる酒場となっていた。以前のバーデルの都ではこうした酒場はなかった。
異性愛者たちが交われば子を孕む心配があるので一夜限りの交わりは避け、また女性の同性愛者たちは、決まった恋人以外とは関わりたがらない傾向があるので、一夜限りの相手を求めない。
しかし、男性の同性愛者たちはお互いの好みが合い、気が合えば一夜限りで関係を持つこともあり、それかきっかけで情人となることもあった。
今夜、一緒に楽しめる相手を求めて酒場に来ているのに、ニルスやエイミーのような異性愛者の恋人同士か夫婦は、正直なところ酒場にいなければいいのにと思われている。

もし、カルヴィーノがこの酒場に噂話を聞きに来れば、すぐに誘われるので男性の同性愛者のたまり場だと気がつく。
ニルスには、男性の同性愛者の傾向はまったくない。
武器商人ヴァリアンや傭兵ザルレーは、フェルベーク伯爵領の闘技場で岩のような筋肉の逞しい闘士が大会で優勝したあと、バーデルの都へ向かったのを追って来たが、会えなかったことを闇商人エラルドにおごってもらった酒を飲みながら話した。
闇商人エラルドは、筋肉がかなり逞しい巨漢よりも、むしろ中肉中背の肥満していない、ほどほどに引き締まった体つきの若い男性が好みなので、大会の優勝者には興味を持たなかった。
ただし、フェルベーク伯爵領では、貴族と市民の男性の同性愛が制度として推奨されていることには興味を持った。
制度が施行されるよりかなり前に、エラルドは商人として旅に出た。
フェルベーク伯爵領の貴族たちから、美少女ではなく、美少年の奴隷を求める要望がある理由をエラルドはようやく理解して、胸がざわめいた。

(私が故郷にいる頃には男性が好きと知られたら、馬鹿にされたものだが、いい時代になったものだ)

騎士ガルドがパルタの都を抜け出して、バーデルの都へ来たとシャンリーが知れば、統治者のいない都を奪う下見に来たと察したはずだが、闇商人エラルドは優勝者の名前などは聞かなかった。
むしろ、バーデルの都からフェルベーク伯爵領へ移住したい気持ちが起きてしまい困った。


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