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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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レナードの覚醒(中編)-6

ニクラウス王は護りの巫女である踊り子の一族が途絶えるのを防ぐために、踊り子の女性たちに娘を生ませた。
踊り子の中でも最も鎮めの力を持つ女性が王宮で踊るが、踊り子の才能を持つ他の女性たちは王都で暮らしている。
ニクラウス王は、彼女たちと交わり娘を残すことで王都トルネリカの鎮めの儀式を継続させた。
シャンリーはロンダール伯爵の一族の呪術師の女性、神聖教団の協力者を媚薬と美貌と愛の言葉で虜にして、呪術師から、王都トルネリカの踊り子の存在についても聞き出していた。
シャンリーは王都トルネリカとバーデルの都、どちらを蛇神の都とするのに適しているかを考えバーデルの都を選んだ。
踊り子を魔族の眷属ヴァンピールに変化させ、護りを失わせることができるとシャンリーは考えていなかった。
ランベール王が神聖教団の教祖ヴァルハザードと同様に、人間であることを捨てヴァンパイアと成り果てるとは予想外だった。
神聖教団が何を危惧していたか。教祖ヴァルハザードが復活することで、ヴァンピールの王国が作られることである。
神聖教団には宰相となったヴァルハザードを討つ時、ヴァンピールの者たちや召喚された魔獣の抵抗を受け苦戦した記録が残されている。

賢者マキシミリアンは王都トルネリカ、パルタの都、バーデルの都とはちがい転移の魔法陣で来ることができたので、この土地に蛇神の影響があらわれている原因を検討してみることにした。
言い伝えから、蛇神の異界の門がスヤブ湖に開いたことがあるらしいとわかったが、その言い伝えからはなぜスヤブ湖に異界の門が開いたのか、よくわからなかったからである。
王都トルネリカ、バーデルの都に蛇神の異界の門が開く可能性は他の土地よりもあるとは話を聞いていて理解できた。
虚脱しているレナードが、蛇神の影響を受けているこの土地にいるつながりが解ければ、かけられた呪いの因果が理解できるかもしれないとマキシミリアンは考えた。

「この土地は山の息吹きとスヤブ湖の清浄な水で、穢れを祓う土地とされてきました」

ストラウク伯爵は書庫で、伯爵領の地図とターレン王国の全域の地図を賢者マキシミリアンに見せて語った。

「この国の地形、とりわけこの伯爵領の地形はおもしろい」

双子の山のあたりをマキシミリアンが指さして言った。

「ここに神聖教団の本部があるハユウがあると考えると、山のふもとの村は商人の街ルヒャンのあたりにあたる。そしてスヤブ湖は平原地帯の大樹海、ちょうどエルフ族の王国のあたりとして考えられる。大河バールはないがあると考えればパルタの都のあたりまで続く。水脈の流れまで似ている。大陸の地図を斜めに傾けたような地形だ」

双子の山と大山脈の神聖教団の本拠地ハユウの都。スヤブ湖とエルフの王国。

「ランベール王とレナードが似ているように、この伯爵領やターレン王国は、ゼルキス王国を越えて大湿原や岩山の向こうの大陸と地形が似ている。世界樹のあるエルフ族の王国とスヤブ湖のある伯爵領が同じような問題が起きているのは、偶然なんかじゃなかった」

深夜になっても、ストラウク伯爵とマキシミリアンが戻ってくるのを居間で全員待っていた。

賢者マキシミリアンは銀貨を1枚取り出して説明を始めた。

「硬貨には表と裏がある。レナードとランベール王、地図を確認したら、この土地と大陸の平原地帯もこれに似た関係にあることがわかった。同じ硬貨だから、つながっているというのがわかりやすいと思う。呪いは、この硬貨に穴をあけるようなものだ。表に穴があけば、裏にも穴があく。こうして伏せれば、片面は見えるが、伏せられた面は見えなくなる。レナードは見えなくなっている伏せられた側、見えている側がランベール王。この双子の山とスヤブ湖がある伯爵領が伏せられた側で、見えている側がエルフの王国や平原地帯ということになる」
「マキシミリアン、今は硬貨に穴があいている状態ですか?」
「そうだ、セレスティーヌ。だから僕らはその穴をふさいで、表と裏の穴に糸を通されたようなつながりのある状態を、しっかり表と裏に分けてやる必要があるんだ」
「レナードとランベール王の呪いのつながりを切り離すということですな」
「そうです。それは同時に伯爵領と大山脈のハユウから平原地帯のエルフの国までの広範囲を切り離す必要がある。そして、穴はスヤブ湖と世界樹。世界樹のほうは、リーナちゃんが世界樹の精霊になっている。こちら側だけは埋まっていない状態なんだ」
「で、公爵様、どうするのさ?」
「アルテリス、リーナちゃんが世界樹の精霊族の伴侶に、レナードには変わってもらう」
「それは、呪詛返しをするということですかな?」
「呪詛返しは呪いをかけた呪術師に呪いを返すということ。でも呪術師の呪いが成就する前なら返せるけど、完全に祟られた後では手遅れだから」
「えっ、手遅れなのかっ?」
「ランベール王やレナードのことを、呪いには無防備な人間だと呪詛をかけた術師は思っていたようだ。アルテリス、呪詛返しはできない。けれど、レナードは必ず感情も取り返せる」
「レナードの心をこれほど傷つけた者に、報復できないのは残念です」
「テスティーノ伯爵、敵に報復するよりも、レナードを回復させるほうが、僕は意味があると思う」

呪術師ロンダール伯爵が、レナードの状態を見れば、もう手遅れだと見切りをつけたかもしれない。
レナードが美少女だったら、本気で術者の命を呪いの代償にして回復させようとするかもしれないが。

「ストラウク伯爵、ホムンクルスという言葉を聞いたことはあるかな?」
「ホムンクルス? 私は聞いたことがありません」
「マキシミリアン、待って、貴方は何をしようとしているの?」

セレスティーヌが、マキシミリアンはまた前例のないことを何か思いついて、始めようとしている気がした。他人の命に危険がないように気づかうが、自分の命には無頓着な時がある。


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