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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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王都奇譚-11

目を覚ましたロイドは、悲鳴のような声を上げて驚いた。
ミーナは服装の感想をロイドに聞いてきたので似合うと正直に答えると、まだ寝起きだが驚かされて胸が高鳴っているロイドに、ミーナはマーサと一緒に、はしゃいで抱きついてきた。
それからは、朝からキスしてきたり、抱きついてきたり、ロイドの寝起きが悪いと、ふたりがかりで悪戯をされる。

(んー、こいつらがジャクリーヌ婦人をこわがるのは、俺がバーデルの都のシャンリーが嫌いなのと同じだな)

ロイドが邸宅の主人のような感じで、ジャクリーヌ婦人が本妻、ミーナ、マーサが妾妻のメイドの雰囲気である。
手下たちはこの3人には、ジャクリーヌ婦人に搾り取られてからは手を出そうとしなかった。マーサによると、他のメイドたちには、仕事の合間に声をかけているようだが、夜這いをかけたりはしていないらしい。
もともと手下たちはベルツ伯爵領の村人たちで、納税がきついので畑を捨てて逃亡した連中なので、庭の手入れから、邸宅の掃除、洗濯までメイドのマーサの指示に従ってよく働いた。
そしてジャクリーヌ婦人を「大奥様」と呼び、かなり恐れていた。

「おい、お前ら、ジャクリーヌ婦人にすっかり飼い慣らされてないか?」
「いやぁ、親分、ここの暮らしが快適すぎて、最近、街暮らしも悪くないなって俺ら話してるんですよ〜」
「ですよ〜じゃねぇ。ここから金を奪って逃げる計画だっただろうが!」

食堂で今後はどうするか手下を集めて話し合っていると、ミーナとマーサを連れてジャクリーヌ婦人が食堂へ入って来たので、緊張した手下たち全員の背筋がまっすぐにのびた。
親分のロイドよりも、手下たちにはジャクリーヌ婦人のほうが、どうやら威厳があるようだ。

「ヨハンネスとふたりから、ロイド窃盗団の計画を聞きました。ロイド、それならばなぜ私を殺さなかったのですか?」

ジャクリーヌ婦人が、椅子に腰を下ろしているロイドのそばへ来て言った。

「殺す必要なんかないからだ。金があれば、こんなに苦労してないからな」

ロイドなりに考えて、ジャクリーヌ婦人の目を見返しながら強気で言ってみた。

「いくら必要なのですか?」

ジャクリーヌ婦人が、単刀直入にロイドに質問した。ロイドは手下たちの顔を見渡してみるが、全員で目をそらした。

「あればあるだけ欲しい」
「全財産を差し上げます」

ジャクリーヌ婦人から金額を言わせようと、曖昧な答えを返してみた。すると、ロイドの予想外なことをジャクリーヌ婦人が言った。
唖然として手下たちも何も言わない。

「それはどういう意味だ?」
「どこにも行かずに、ここで暮らせばよいということです」
「ブラウエル伯爵が帰ってくれば俺たちは捕らえられる」
「捕らえられなければ、私とここで暮らすのですか?」
「それは無理だろう」
「できますわ」

ジャクリーヌ婦人の返答に、手下の連中が立ち上がって、はしゃぎ出しそうな笑顔になる。

「貴方が私と婚姻すれば、ブラウエルの義理の父親となります。全財産というのは、この婚姻の結果です」
「俺が結婚だと。それにブラウエル伯爵は納得しないだろう?」
「承諾しなけばヨハンネスを殺すと言えば、ブラウエルは私に従います。あとは貴方しだいです」

ヨハンネスに初めて会った時の違和感をロイドは思い出した。
手下たちはミーナとマーサに言われて席を移動し始めた。
ロイドの左側の最初の席に、ジャクリーヌ婦人が腰を下ろした。
右側の最初の席は、手下たちが席替えをしている間に食堂へ来た子爵ヨハンネスが腰を下ろした。
マーサとヨハンネスの間に席をひとつ空け、14人の手下たちが腰を下ろした。

「今日から新しいメイドがふたり増えます。この場で紹介しておきますね」

マーサとミーナが廊下で待たせていたふたりを食堂に案内した。

「あっ、なんだ、リュシーとリータじゃないか!」
「私たちはジャクリーヌ婦人のお屋敷でお仕えすることになりました」
「みなさんよろしくお願いします」

手下たちが姉妹が挨拶をすると拍手してリュシーとリータがスカートの裾を両手でつまみ貴族式の挨拶をしてから、ジャクリーヌ婦人の背後の壁際にマーサ、ミーナ、リュシー、リータの4人のメイドが並んで立った。

「お前ら、みんなでジャクリーヌ婦人に寝返ったのか!」

ロイドが椅子から立ち上がって全員の顔を見渡した。

「私に寝返ったわけではありません。私が全員のまとめ役になっただけです」

ジャクリーヌ婦人がロイドに微笑を浮かべて言った。
ロイド窃盗団は、ジャクリーヌ婦人にあっさりと、邸宅で10日間ほど滞在している間に乗っ取られてしまった状況になっていた。

美少年の子爵ヨハンネスは、手下たちの間では本当は女の子なんじゃないかと噂になっていた。たしかに、女性の服装を着ていれば、ふわりとした金髪の巻き毛や顔立ち、華奢な身体つきや声変わりしていない声まで少女だと思われても不思議はなかった。

「ロイドさん、僕、ブラウエル伯爵と結婚できるそうてす」
「いやいや、見た目は女の子っぽいかもしれないけど、さすがに無理だろう」
「できます」

ジャクリーヌ婦人は伯爵と同じ地位なので、婚姻の承諾ができる。ターレン王国の法律では、男性の同性婚を禁じていないことをロイドはジャクリーヌ婦人から聞き驚いた。

「夫が亡くなると、妻が領主の地位を継ぎます。そのため男性を伴侶とする婚姻は認められているのです」

舞踏会に男色家は参加するが女性同性愛者が参加しない理由は、男性貴族は後継者の男性を伴侶とすることが認められていて、養子を後継者とするのと変わらない扱いというターレン王国の法律が関係している。
女性の同性婚を認められていないのは、未亡人は再婚しない習慣があり、死んだあと伴侶と再会できないと思われていたからだという。


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