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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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王都奇譚-1

ルーク男爵は、子爵ヨハンネスをブラウエル伯爵領のジャクリーヌ婦人へ身柄をあずけた。
これでブラウエル伯爵の側近として、自分の死後は溺愛していた貴族令嬢に顔立ちがよく似た子爵ヨハンネスに、男爵の爵位や財産を自分の死後は継承できると安堵していた。
王都に子爵ヨハンネスを置いていて、政敵であるランベール王の側近ゴーディエ男爵を中心とする親王派にヨハンネスが賛同したら、軍部と宮廷議会と国王による政治体制の確立という理想は失われてしまう。
ルーク男爵は、モルガン男爵の派閥の宮廷議会の議員であった。宮廷議会の重鎮モルガン男爵が、王命によりゼルキス王国への牽制のための遠征軍の派遣の補佐官に任命された時、ブラウエル伯爵領のジャクリーヌ婦人は遠征軍に支持せずに人員や物資を温存する方針をルーク男爵へ伝えてきた。
遠征軍の将軍は、騎士ガルドであった。
もしも、将軍にブラウエル伯爵が任命されていたら、もっと大規模な遠征を行っていたはずだと、ルーク男爵は考えていた。ガルドというどこの馬の骨かわからぬ人物にランベール王が騎士の爵位を与えて将軍にした。遠征直前の軍事会議にルーク男爵も参列していた。モルガン男爵からは、ランベール王は平民階級のあぶれ者を集めて処分するお考えなのだろうと、ルーク男爵は説明されていた。
モルガン男爵が、騎士ガルドに遠征軍の兵糧を着服していたことが露見してパルタの都で暗殺され、軍部組織の強化の政策のルーク男爵は宮廷議会から追放されないように、ジャクリーヌ婦人の縁者たちと手を結んだ。
ジャクリーヌ婦人は、ブラウエル伯爵をターレン王国の軍組織の責任者として、宮廷議会よりも強い実権を握らせようと考えている。いずれブラウエル伯爵がこの王国で最も兵力を保有する人物となれば、宮廷議会と対等かそれ以上の影響力を持つ立場となる。ルーク男爵はその時勢の流れを、子爵ヨハンネスがつかめるように手を打った。
ジャクリーヌ婦人は、ルーク男爵はすでに権勢を失った宮廷官僚と考えていた。現在はランベール王と王佐の廷臣と謳われているヴィンデル男爵の曾孫ゴーディエ男爵が、権勢を握っている状況だと判断していた。そのためメイドのメリッサを小貴族に仕立て上げるために利用したり、美少年の子爵ヨハンネスを落ち目のルーク男爵が爵位と財産を受け継いだらジャクリーヌ婦人の養子に迎えようと画策していた。ヨハンネスの受け継いだ遺産を、ジャクリーヌ婦人とブラウエル伯爵が奪うためである。
ルーク男爵には書面上の偽装された長女のメリッサや、妾妻の産んだ隠し子の次男のニルスがいる。だが、ルーク男爵の後継者候補の最有力者は、子爵の爵位を14歳ですでに得ている美少年ヨハンネスである。
ジャクリーヌ婦人は隠し子のニルスのことを知らない。ルーク男爵が亡くなったら、ロンダール伯爵がニルスをルーク男爵の後継者として、エイミーと婚姻を承認する書状とルーク男爵のニルスに男爵の地位と財産を譲るという内容の偽物の遺書が、王都のマジャールと女男爵レギーネの法務官の交代の時期に出されている。そして、ランベール王の承認のサインが記入され王宮の保管庫に眠っている状態となっていた。ジャクリーヌ婦人とブラウエル伯爵の宮廷官僚の遺産を奪う謀略は、ロンダール伯爵によって、すでに妨害されている。
凶運をかぶせる獲物としてロンダール伯爵から、ルーク男爵はすでに目をつけられていた。
ニルスとエイミーを保護したのは親切なだけではなく、ロンダール伯爵の身の回りの者の身代わりとして、ルーク男爵を呪われる贄にするつながりを作るためでもあった。
ロンダール伯爵にとって「僕の可愛い妹たち」の命や、腹違いの妹にして愛人のメイドのアナベルの命を凶運から護れるなら、ドレチの村の別荘をニルスとエイミーに譲るぐらい安い買い物であった。
落ち目のルーク男爵は、新しい法務官の女男爵レギーネがゴーディエ男爵を中心とする親王派なので、生前に爵位や財産の譲渡に関する手続きを行っておくことを怠っていた。
リヒター伯爵領で子爵リーフェンシュタールの伴侶となったヘレーネや、ストラウク伯爵領で呪詛返しを行っているストラウク伯爵やテスティーノ伯爵によって生き残りのための運命の変化が目には見えないが始まっている。
パルタの都の護りの力によって、王都トルネリカには祟りや蛇神の呪いの凶運の影響は及ばないはずだった。
シャンリーによる大量虐殺の贄を捧げる儀式やランベール王に施した呪詛、後宮ではヴァンパイア化した国王が、教祖ヴァルハザードの影響を受けていた。
さらにパルタの都でモルガン男爵や元執政官のベルマー男爵が女性たちの強い怨みを引き起こしたことで、護りの力はモルガン男爵を恨む令嬢ソフィアと騎士ガルドを呼び寄せ、元凶の強姦者ふたりを殺害させた。
強姦者ロイドをシャンリーが生み出したことも、異変のひとつといえるだろう。
ベルツ伯爵はヘレーネの母親であるアリーダの加護と犠牲があったおかげで、生き残っている。しかし、ザイフェルトとフリーデを追放した事で、その加護を手放しつつある。
強姦者ロイドたちの窃盗団に恥ずかしめられた訴え出ない被害者の女性たちの怨みを、ベルツ伯爵は騎士ガルドのように元凶の強姦者を見せしめにするように処刑して、安心させて鎮めることができていない。
ベルツ伯爵領には鎮めの神官アリーダは亡くなり、娘のヘレーネも出奔した。念の力はあれど祓いの力として使えていない子爵シュレーゲルさえも離れている。
リヒター伯爵領、ストラウク伯爵領、テスティーノ伯爵領、ロンダール伯爵領にある目に見えない護りの力を、ベルツ伯爵領は失いつつある状況である。
各地の異変や人々の凶運に、辺境で蛇神の異界の門とのつながりが強い影響をあたえている。
ターレン王国は、ゼルキス王国のように障気の流入に対する魔法障壁を国境に張り巡らせていない。
目に見えない力の影響に対し無防備なブラウエル伯爵領には、すでに強姦者ロイドの窃盗団が潜伏している。


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