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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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妖国記-6


ストラウク伯爵領の山に囲まれた盆地。この土地は辺境地域をふくめたターレン王国全体の穢れを祓う聖地である。
かつてパルタの都が建造され、蛇神の神殿が破壊された時には、毒性のある巨大スライムがスヤブ湖に発生して湖の水を汚染した。蛇神の都へ集まっていた穢れが地脈が寸断されて山へ流れ込み、異変を引き起こしたからであった。
その異変以上の危機に直面しているのをストラウク伯爵は感じていた。

この土地を捨て、他の伯爵領へ移住することもストラウク伯爵は、領民たちとの話し合いで提案した。集落の男性たちの異変も他の土地へ移住すれば治るのではないかと考えたからである。
しかし、集落に暮らす領民たちは、故郷を捨て他の伯爵領で村人として暮らす提案に難色を示した。ストラウク伯爵以外の貴族がおらず、自給自足ができる豊かな土地から離れたがらない。
他の伯爵領から男性を迎えても、ストラウク伯爵のような念力や感応力を持つ男性でなけば、集落の男性たちと同様の被害者が増えるだけになるのは、ストラウク伯爵にも予想できた。

「このまま、どの村も女性しかいなくなったとしたら、どうする?」

すると、他の土地へ行って子供を産み、子供を連れて戻って来ると言い出した。ターレン王国が建国する以前は、山は聖地であり、若い女性は加持祈祷をしながら旅をして、子を産み山へ帰ってきていたという、この土地に伝わる古い風習を持ち出してきた。
旅人のもてなしの風習は、この裏鬼門の土地に穢れが集まり、女性ばかりになったことがあったことも関係があった。

「スト様だけは平気なのは、どういうわけなんでしょう?」

もともと術師の血統で、穢れを祓うためにやって来た者の末裔で力が強いとストラウク伯爵が説明しても、領民たちは意味がわからず首をかしげていた。

エルフ族も世界樹から女児ばかり現れる事態が起きた。この山の聖地では、こうした男性が役立たずになる異変が起きた言い伝えが残されていた。素質のある巫女が旅に出て、素質のある男性と交わって産んだ男児の子供を連れ帰り、これを繰り返して滅亡を免れたらしい。

(母親になる女性にも素質があれば、穢れに萎えない男性との子供を産めるかもしれない)

ストラウク伯爵はそれを聞いて、巫女の素質がある乙女たちを選び出し、男児を孕ませようと、昼間からがんばってみているというわけである。

巫女となる素質のある乙女の中でも、マリカは一番の資質を持った村娘だった。もしも、マリカが女伯爵シャンリーと出会っていたら、マリカを呪術に使うか生贄にするかと考えながら、妖しい微笑を浮かべたシャンリーに誘惑されていたにちがいない。
マリカは、ストラウク伯爵のことが子供の頃から好きで、初恋の人だったので、集落からストラウク伯爵の身の回りの世話や巫女の修行に来ることが許されたのもうれしかった。ストラウク伯爵の子供を産みたいと心から願っていた。

「マリカが私の膝ぐらいの背丈の頃から知っていたが、まさか私の妻となるとは思ってもみなかった」
「あたしは、スト様のお嫁さんになるって言いましたよ。6歳の頃ですけど。大きくなったらおいでって、スト様は頭を撫でてくれました」
「こんなことがなければ、私のような老人ではなく、若い男と恋をして夫婦となれただろうに」
「6歳の頃に約束しましたから、村の男の人たちが役立たずになっていなくてむ、あたしはスト様のところに仕えるつもりでしたよ」

テスティーノ伯爵は武器に念を込めて戦う武術の達人だが、ストラウク伯爵の義兄弟でもある。テスティーノ伯爵は、ストラウク伯爵を兄者と呼ぶ。ストラウク伯爵もまた念力の使い手で、子を孕ませにくいのも自覚していた。
テスティーノ伯爵が妻にしたのはストラウク伯爵領の村娘だった。マリカは、子爵カルヴィーノの妹にあたる。
テスティーノ伯爵の令嬢ではあるが、母親は平民階級の村娘で、貴族間の婚姻ではなく妻妾なので貴族たちからは令嬢としては認められない。
カルヴィーノは、ストラウク伯爵の縁者から養子としたと伯爵ふたりで偽装してテスティーノ伯爵の後継者として子爵の爵位を与えられている。
テスティーノ伯爵と恋をした村娘のアカネも巫女の資質があった。アカネとテスティーノ伯爵の血を継ぐカルヴィーノとマリカの兄妹には、術師の資質が受け継がれていた。

水脈が地の底でターレン王国の各地につながっているように、目に見えない魔力が血のように流れ、地脈というものでつながっている。
ストラウク伯爵は、ターレン王国の地脈を乱れから異変が起きようとしていると感じた。
かつてスヤブ湖に魔物が発生した記録が残されている。各地に魔物が出現することがあれば、魔物を祓うための術師たちが必要になる。魔物が出現する異変は、自分が亡くなった後からだろうと、ストラウク伯爵は予想した。
それまでに、退魔師を育成しておくことが最後の大仕事だと考えていた。

だが予想より早く、辺境では聖騎士ミレイユが異界から出現した蛇神のしもべと戦っていた。

退魔の剣技の後継者である子爵カルヴィーノは、バルタの都で強い術師の資質を持つ人物と出会うことになる。
思想家モンテサンドの一番弟子である子爵リーフェンシュタールである。繊弱な貴公子然とした外見のリーフェンシュタールと出会ってから、カルヴィーノは奇妙な夢をみるようになった。
リーフェンシュタールは、カルヴィーノと初めて官邸で会った時に「シモン」とカルヴィーノのことを呼んだ。
夢の中でカルヴィーノは、王から「シモン」という名前で呼ばれていた。

「先生、生まれ変わりというものがあるとして、前世の記憶を思い出すことはあると思いますか?」
「カルヴィーノ、私には不思議な夢だとしか言えない。死んでからしか確かめようがない」

王の名から、ターレン初代国王の時代だとわかるとモンテサンドは答えた。
モンテサンドは、安易に肯定も肯定もしない。


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