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Sorcery doll (ソーサリー・ドール)
【ファンタジー 官能小説】

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思想家モンテサント-4


「私はゼルキス王国やその向こうにある異国のすべてが、すばらしく良いものとは考えられない。ただ受け入れるだけでは、毒を飲まされるようなものだとすら思っている」

モンテサントの弟子たちには、子爵リーフェンシュタール以外にも、逃亡者のザイベルトや、テスティーノ伯爵領からカルヴィーノという若者などかいた。カルヴィーノは、伯爵が村娘に生ませた子である。

「私は神聖教団の信仰についての書物を謹慎中に、獣人族の行商人から買うことができたので読んでみたことがある。ゼルキス王国や平原の異国では国教として保護されている信仰らしい。愛と豊穣の女神ラーナの前では全ての者は、平等なのだという。そう、身分は関係なく、国王も村人も平等ということらしい。しかし、実際は平等ということを感じるのは混乱した状況にいる時か、死を前にした時ぐらいだろう」

モンテサントは、パルタの都でリヒター伯爵領官邸に滞在して、若い弟子たちに知識や自分の考えを教えていた。

「人が集まって生きるためには、それぞれ役割がある。それぞれが役割を担うことで、助け合うことで生きることができる。国王の役割、貴族の役割、村人の役割がある。だが、実際はどうだろう?」

平等という考えかたがすばらしく感じられるということは、実際は不平等で、何か不満があるということを感じているからだと、モンテサントは説明した。

「信仰や国の法律がなく、それぞれが自分の命を維持することだけを考え、必死だったとすれば、人はあらゆる手段を使いて、さまざまなものを奪い合う。さらに、奪われないように守るために殺し合うことすらある。そうなれば、命を維持する目的のために、常に危機にさらされてしまう」

モンテサントは、王国の正統性、王国の成立は自分たちが必要に迫られて、望んで作り上げたものだということを説明しようとした学者だった。
王や貴族に与えられた権力や権限と、それに従う者たちに課せられた義務や制限をどう考えれば納得して生きられるかを示そうとした。
ターレン王国において王国の正統性は、始まりは食糧危機を解消する目的のために作られた人のあつまりだったことから始まっている。

「王国が存在する以前は、人が欲望のままに行動できる、自由かつ平等な状況だったのだろう」
「先生、望むままに行動できるとは、すばらしいことに思えます」
「いやいや、それは混乱した状況だ。身を守るために警戒し続けなければならないという意味では、最悪ともいえる」

欲望のままに、誰もが行動することができるが、それを全ての人が実行したとしたら、混乱した不安な状況に陥る。必ず利害がぶつかる。

「どうすれば私たちが安心して生きていくことができるのか。それぞれで好き勝手に行動する自由を手放し、国王と王を補佐する宮廷議会にあずけた。国王や貴族は譲り渡された自由を使い、飢えて死んだりせずに安心して暮らせるか指示して自由の一部を返して行わせる。行動を制限されることを、自分たちから望んだというわけだ。ところが奴隷は、契約によって行動の自由を奪われ、商品のように売買される」

(なるほど、さしずめ俺はフリーデをベルツ伯爵に捕らえて、自由な行動を奪われている奴隷というわけだ)

ザイベルトは、モンテサントの話を黙って聞きながら考えていた。

「ヴィンデル男爵が宮廷議会をまとめ、必要があれば国王を諌めることができていた頃であれば、いくらかましだったのだが、リーフェンシュタール、このままでは、いずれターレン王国は、国王への恐怖心と財貨の利益が、人を動かす新たな信仰になるだろう」

モンテサントを訪ねてくる人物は、伯爵領からだけではなく、パルタの都に在住する中流貴族たちも多かった。
今の宮廷議会は、王都に在住する名門貴族の官僚がほとんどであり、伯爵家との血のつながりのある貴族たちは冷遇されていたからである。

騎士ガルドが訓練した遠征軍の後発隊を引き連れ、パルタの都を占拠した時、リヒター伯爵の後継者である子爵リーフェンシュタールは、師の提案を受け入れ、リヒター伯爵領に帰っていたので難を逃れた。

子爵リーフェンシュタールは、眉目秀麗にして繊弱な外見の男性である。父親のリヒター伯爵に似た温和な印象を人に与えるが、内面には冷静沈着にして氷の刃のように鋭い部分を持つ人物だった。
モンテサントは、後援者のリヒター伯爵から、一人息子を伯爵領へ戻るように説得するように頼まれていた。

テスティーノ伯爵の隠し子であるカルヴィーノは、伯爵領から出奔してパルタの都に滞在していた青年である。パルタの都で衛兵になろうと訪れたが、パルタの都は衛兵も中流貴族の子息たちが勤めていて、この快男子は職にありつけなかったのである。剣や乗馬、ついでに馬の世話まで身につけている青年は、モンテサントの弟子として、官邸に寝泊まりして世話になっていた。
カルヴィーノに、モンテサントは子爵リーフェンシュタールに仕えてみてはどうかと提案した。リーフェンシュタールを兄弟子として慕っていたカルヴィーノは喜んでリヒター伯爵領へついて行った。

「ザイベルト、君はどうする?」

子爵リーフェンシュタールは、ザイベルトの命を惜しんで言った。
ザイベルトは、ベルツ伯爵領に妻のフリーデを人質として残してきている。
この長身の美丈夫の若者ザイベルトは、モルガン男爵の暗殺を止めて身を隠すことを、モンテサントに提案された。

「ベルツ伯爵から、妻君のフリーデを奪い返せばいい。私が協力する」
「王都トルネリカのモルガン男爵の邸宅に乗り込んで殺して、その後は無事に伯爵領に戻れるとは限らない。ベルツ伯爵は、ザイベルトを使い捨てにするつもりな気がする」

子爵リーフェンシュタールとカルヴィーノは、ザイベルトにリヒター伯爵領へ来て、協力して欲しいと誘った。

「もしフリーデを連れて、ベルツ伯爵領から出奔できたら頼らせてもらう」


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