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『洋蘭に魅せられたM犬の俺』
【SM 官能小説】

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『洋蘭に魅せられたM犬の俺』-17

 (10)
 俺が元の俺でなくなっていく日々。
 この屋敷に足を踏み入れた瞬間から後戻りは出来ないと覚悟は決めていたが、あれ以来一度も両足で立ち上がったことはない。四つ足で歩く犬になった。
 しかも卑しいメス犬。
 皆から軽蔑され、嘲笑され、唾棄されるメス犬だ。
 心の中で俺が呟く時も「俺」から「あたし」にいつの間にか変わっていた。
(あたし、もう男なんかに戻れないわ……)
 元の俺がどんな男だったのか、今ではもうほとんど忘れてしまった。元の俺に戻りたいとも思わない。郷愁すら覚えない。
 酒と女漁りに耽る享楽的な暮らしをつづけ、卑猥な裸婦像ばかりを描いていた売れない絵描きだったはずだが、あの頃の俺は心が満たされてはいなかった。
 美しい女を調教することばかり考え、奴隷のように従わせて愉しんでいたが、どこかに虚しさを覚えていたのは確かだ。
 今は逆にひどい扱いを受けているが、心は麗様のことで満たされている。麗様をお慕いする気持ちが漲り、充実しきっていると言ってもいい。心の底から奴隷にならなければ味わうことの出来ない恍惚の極致だ。
 セントバーナード犬と一緒の檻に放り込まれ、その種付け犬に犯される心配をしながら女性ホルモン注射を毎朝打たれ、女体の柔肌にふさわしい図柄のタトゥを全身に彫ってもらっていた。

 ここは反省房だ。反省ということは、その先に未来があるという意味だ。ひどい毎日でも、麗様に相手して頂ける女に一歩一歩近づいていると信じたかった。

 ヒップを鏡に映すと、滑らかな光沢肌だ。ウエストがキュッと細くくびれ、女尻のようにたっぷりと脂肉が張り出してきている。内腿の間にある男の名残りの肉茎さえなければ美しい女体特有のまろやかなラインだ。嫌らしく美尻を振って、卑猥なポーズをみんなに見せつけたくなる。
バストもブルンブルンと悩ましく揺れる紡錘形のCカップに膨らんできている。
(あたしのヒップは、すっごく嫌らしいし……バストもとっても猥らだわっ)
 滑らかな光沢の柔肌に刻まれたタトゥは素晴らしい出来映えだった。
左右のバストとヒップの谷間に、洋蘭の女王とも呼ばれるカトレアの華麗な大輪が咲き誇っていた。淡いピンクの花弁は蝶が羽根を広げたように描かれ、乳首とアナルは艶やかな薄紅色の花芯になっている。小粒の乳首は勃起したクリトリスのように映り、アナルは女の膣穴を思わせる深い窪みに見える。
背中と太腿にも極彩色の洋蘭の花弁が散りばめられ、それらを繋ぐ鎖が禍々しい蛇身のような図柄で彫り込まれていた。
 淫らに濡れ光る女の性器を至る所に咲かせる猥褻な女体だ。
身体をクネらせると、いくつもの女性器が喘ぐように歪む。自分の身体とは思えない淫らな洋蘭の香りを放つ女体だ。
極彩色の薄膜シールを全身にピッタリと貼り付けているような気分だった。
 それが俺を更にメス犬に変えた。

「ほう、なかなかの変身ぶりですな。カズーと一緒の反省房はいかがですかな」
 二カ月以上が過ぎていたはずだ。久しぶりに老執事が俺の様子を窺がうために姿を現わした。
「ああっ……あたしのこの身体をご覧になれば、おわかりでしょう。ご覧のとおりのメス犬です。もう射精で麗様を汚すような愚かな罪を犯すオス犬では、ありません」
 俺は四肢をよじって訴えた。
 老執事の姿を久しぶりに見ると、麗様を慕わしく想う気持ちが一層溢れかえり、狂おしい恋情にまみれて涙が零れ落ちた。
 同じ屋敷にいながら麗様にお目にかかれない辛さが大粒の涙となって止まらない。
 早く会わせて欲しくてたまらない。
「カズーは獰猛な種付け犬ですが、カズーの猛烈な求愛をもう受け入れられたのですかな」
 老執事は嫌らしい好奇心を隠そうともせずに、メス犬化した俺を見下ろしていた。
「それだけは……いくらカズーに迫られても、嫌なんです。麗様のご命令ならば、従うしかありませんが……」
「そうですか。まだカズーに襲われていらっしゃらないとはね……メス犬としては半人前の、処女のままですか」
 老執事の表情は微妙だった。半ば落胆したような雰囲気だった。
「ううっ。まだ処女のままでいさせて下さいっ」
 俺は床に額を擦りつけて、老執事に妙な哀願をした。
「麗様があなたのペニスを切り落とすのは駄目だと仰せでしたから、まだ残したままですが……メス犬のあなたには、どうにも目障りなペニスですな」
「あたしは、どうすればいいのでしょう……」
 俺は老執事の足元に這って行き、完璧に女体化した裸身を擦りつけた。
 老執事が麗様の意を酌んで、俺の様子をチェックしに来たのは明らかだ。俺が満足のいく状態になっていれば、麗様に会わせて頂けるということだろう。
「こんな大きく膨らんだ醜いペニスをブラブラさせておく訳にはまいりませんな」
 能面顏に戻って、老執事が呟いた。
 やはり切り落とすべきだと言いたいのか。
「この貞操帯を付けることに致しましょう」
 老執事がポケットから差し出したのは、男根を役立たずなものにするステンレス製のケージのような貞操帯、チェイスティティだった。長さがわずか4センチほどの檻の中に肉茎を閉じ込め、玉袋の根元を絞めあげるリングと連結させる男性用貞操器具だ。
 去勢されたも同然だった。
 あまりにも惨めだった。股間にブラブラと重たく垂れ下がり、勃起は完全に不能な状態を強いられた。
「まあ、これで見た目は完璧な去勢犬ですな。実は今日の午後、麗様にお見せすることになっているのです」
 思いがけない老執事の言葉に、俺は狂喜した。
 俺の処罰がようやく解け、麗様に再びお目にかかれる待望の時が訪れたのだ。
 それからは自分でも何をしているのかわからなかった。
ソワソワして落ち着かず、子宮のあたりがズキズキと疼き、貞操ケージに閉じ込められた肉茎の先端から透明な淫汁が垂れつづけた。


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