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可愛い人
【幼馴染 恋愛小説】

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可愛い人3-1

ドアを開けば、いつもの匂いといつもの雄一。
「おかえり」
雄一の笑顔。八重歯の可愛い、私の大好きな笑顔。
「もうすぐ出来るから、座って待ってて」
私の鞄を受け取り、台所へ向かう背中。雄一だ。雄一がいる。込み上げる想いに呼吸の仕方を忘れてしまう。
「ごめんな、結衣」
フライパンに視線を落としたまま、雄一は言った。
「そんなに不安にさせてるなんて思わなかったんだ」
こしょうを振り掛ける手が止まる。背中から緊張が伝わる。私は痛む胸を押さえ、次の言葉を待った。
「俺、結衣が好きなんだ」
「…私も好きだよ」
「そうじゃなくて、女として。もう、ずっと昔から」
コンロを切る音が弾け、あの夜と変わらない美味しそうな匂いの炒飯がテーブルの上に置かれた。雄一は向かいの席に着き、いつものように頬杖をついて私を見つめた。
「結衣が俺のことを兄としか思ってないのはわかってたし、何度も諦めようとしたけど、無理だった」
切れ長な二重の瞳が私を捕らえる。筋の通った鼻と少しだけ厚めの唇。ずっと一緒にいたけれど、こんな風にあらためて雄一を見ることはなかったかもしれない。綺麗に浮かび上がった鎖骨と、程よい筋肉の付いた二の腕の曲線。
雄一は、男なんだ。
「いただきます」
炒飯を一口食べる。私の好みに合わせて、卵が多め。すごくすごく優しい味。
「美味しい?」
「うん」
「良かった」
雄一の微笑みにつられて私も笑顔になる。私はこうやって、いつも雄一から笑顔をもらってきた。
「結衣」
「ん?」
再び、すっと真剣味を帯びる表情。私も手を休め、雄一を見つめる。
「見守るだけは、限界なんだ。俺と付き合って欲しい」
声が震えている。雄一が可愛い。
「雄一、こっち来て」
「え?」
「いいから」
戸惑う雄一を強引に呼び寄せる。
「おいで」
手を広げてそう言うと、雄一は眉を寄せて困惑しながらもその場にしゃがみ込んだ。私はそのまま雄一の頭を抱きしめる。普段隠れているつむじが見えて、堪らなく愛しい。
「雄一、可愛い」
雄一の唇に私の唇を触れさせる。
「ゆ、結衣?」
目を丸くする姿が益々可愛いくて、私は溢れる気持ちを抑え切れない。自覚した途端、逸る身体を止められなくなってしまった。雄一の身体を押し倒し、短いキスを繰り返す。
「待って待って!」
「ね、舌入れてい?」
「だめだめ!絶対だめ!」
雄一の腕に押し起こされてしまい、頬を膨らませる。
「結衣は俺が好きなの?」
「言わなくたってわかるでしょ?」
会話を交わす時間さえもどかしくて、再び口付けを始める。
「待ってってば!俺はもっとゆっくり進んで、結衣を大事にしていきたいってゆうか」
「本当の雄一が見たい」「ほ、本当の俺?」
「うん、キスしたいでしょ?」
「そりゃ…したいけど」「私もしたい。じゃあ、いいじゃん」
容赦なく舌を差し込む。雄一の焦る反応が面白くて、どんどん意地悪をしたくなる。
「好きだよ、雄一」
耳元で囁くと、雄一は耳まで真っ赤になった。可愛い。雄一、大好き。これからもずっと一緒にいようね。もちろん、恋人として。私は暴れる雄一に、夜が明けるまでキスをした。


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