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薄氷
【SM 官能小説】

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薄氷-14

…あっ…ああっ………………はぁ………

半分ほど開いた女の唇から蚕(かいこ)が糸を吐くような細い嗚咽がこぼれる。女は背中をのけ反らせながら、あなたの頬を腿でゆるやかに締めつける。

はぁ………ううっ……

彼女の性器全体の微熱は、少しずつ烈しい息づきを取り戻していた。浮き上がった女の腰を抱え込んだあなたの指が女の柔らかい尻肌に喰い込み引き寄せると、舌先は渦を巻くように襞の粘膜を掻き、襞の深みから滲み出る愛液に染まる。
女は、自分に酔うような恍惚感に微かに息を切らせていた。しだいに女の瞳が潤み、欲情にかられたような体温が陰唇に脈打ち、彼女のぬめった疼きがあなたの中に漂ってくる。女は腰を振り、あなたの頬に蕩けるような淫唇を強く擦りつけると、窒息させるくらいに白い太腿であなたの頬を絞め、大きくからだをのけ反らせた。
女の瞳の奥が溶けるように潤み、繁みに覆われた陰部の下であなたの呼吸が荒くなったとき、あなたは喉仏の血流を感じ、女の中から滲み出す蜜汁をまさぐるように舌がひとりでに蠢くのを感じた。
口元から涎が糸を引くように流れ、女の陰毛をぐっしょりと濡らしている。舌先が、ぬめった彼女の淫唇を引っ掻くように撫であげながらひくついたとき、女は尻を上げ、身体をずらしてあなたの腰の上に跨り、わずかに堅さを含んだペニスをしっとりと濡れた陰唇に含んだ。
女の肉襞と絡み合う感覚はないのに、あなたのものは屹立し、堅さを増していった。意識されないペニスの漲(みなぎ)りは、目の前の女であろうと、妻であろうと、変わらないことにふとあなたは気がつく。おそらく妻は、《そのことに気がついていた》に違いなかった。

射精のあとの肉体の喪失感だけが残った。それがセックスと言えるものなのか、あなたは戸惑った。それは妻と交わっていたときと《何も変わってはいなかった》。女の肉襞の痙攣に包まれたペニスの血流が止まり、急速な萎縮感はどこまでも不透明で曖昧なものだった。
抜かないで……そのままにしておいて。女は唇から嗚咽を零すようにつぶやいた。萎え始めたあなたのものを含んだまま、女の小刻みな痙攣は絶え絶えになりながらも、けっして消えてしまうことはなかった。


「ねえ、あなたって、わたしをひどい目にあわせることができるかしら。わたしの心と体を苦しめるようなひどいこと……」女は、別れた妻と同じ言葉を吐いた。
あなたはベッドの中でうつ伏せになっている女のなめらかな背中の翳りを優しく唇でなぞった。そのときつかみどころのない妻のからだの記憶と女の姿態が重なり、よじれた遠い時間の記憶が砕かれたガラスの破片となって鈍色の光彩を煌めかせた。
女はからだを起こすと、仰向けになったあなたの身体に包まれるように体を小さくした。
「そうされることをきみは望んでいるのか」とあなたは言った。
ふっくらとした乳房の桜色の蕾が弾けるようにそそり立っていた。女の顔があなたの下半身を這い下がり、萎えたペニスの先を指先でゆっくりとなぞった。そして、物憂く吐息を吐くような声で言った。
「あなたはわたしを痛めつけたいほど愛することができるかしらっていうこと………」
女の顔から笑みが消え、あの男の記憶の中に深く入り込んでいくような表情をあらわにする。
「あの男がきみを愛していたというのか」
「わからないわ。でも痛めつけられるわたしは確かに彼のものだった………だから、彼に捨てられたことに耐えられるような気がするの」
女の鎖骨の下にできた翳りが彼女の全身の体を覆っていくような錯覚にあなたはとらわれ、なぜか女が遠いところにいるような気がした。
不意に女は言った。「わたしはやつに、よくハゲタカの岩山の話をされたわ」
「それっていったいどういう話なんだ」とあなたは言った。
「やつの女の捨て方だわ」
 ハゲタカの岩山は無人島の山頂にあるという。あの男に捨てられる女は、その岩場に打ちこまれた鉄環に全裸で磔にされるように手首と足首を鎖で縛りつけられ、天空に晒される。女はそのまま放置され、男は立ち去っていく。男がいなくなると、やがて獣があらわれ、女を犯し、空から餌をうかがっていたハゲタカが舞い降り、獣の精液で濡れた陰部を嘴でつつき、喰い千切り、やがて肉体のすべてを食い荒らしてしまうらしい。
「ほんとうにそんなことがあるのか」
「やつは、本気でそういうことができる男だわ。わたしはその岩場の写真を見せられたことがあるの」
「でも、男に捨てられたきみは、そうはならなかった……」
女の指先から体温が微かに肉幹の芯に伝わってくる。女が身を撚(よ)りながらあなたの下腹に這い下がり、頬を寄せるとあなたのものを唇で絡めとり、息を吸い込むように唇の先端から呑み下すように咥え込んだ。
女の口の中で唾液がねっとりと肉幹にまぶされ、舌が包皮に淡く絡まってくる。唇は幹の根元を強く絞めつける。ふたたび堅くなっていくものに彼女は安心したように愛撫を繰り返す。あなたはそのあいだ、岩山に置き去りにされ、失われていく女について考え続けていた………。


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