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『果穂〜濡れた笑みをあなたに〜』
【その他 官能小説】

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『果穂〜濡れた笑みをあなたに〜』-3

鞄の中。携帯電話。聞き慣れた着信音。誠から…何度も。通りと平行して走る、この町を二分する川。鳴り続ける携帯を、投げ込みたくなる衝動が、何度も果穂の歩みを止めた。目を射るヘッドライトのパッシング。小刻みに、強いクラクション。反対車線。ハザードランプ。もう一度、クラクション…長めの、クラクション。振り返る、果穂。半分だけ開く、窓。顔を出そうとして、改めてドアが開く。白い軽トラック。車体に書かれた見覚えのある社名。スーツにジャンパーを羽織った男が傘を持って歩み寄る。襟元で緩められたネクタイが、歩みに合わせて小さく揺れるのを果穂は見ていた。
「どうしたの?驚いたよ」
果穂の勤める会社に出入りしている業者、大沢だった。差し出された傘に入り、果穂は大沢に促され助手席に乗り込む。エアコンによって温められた車内の熱気が、果穂の緊張をほぐす代わりに、さらに涙を誘う。大沢は車を走らせ、果穂を見ないまま話し始める。果穂の上司に無理を頼まれ、休日の今日納品を済ませた事。会社には誰もいなくて途方に暮れたこと。その上司に日頃から値引きを強要され困っていること。時折、果穂の上司の口調を真似しながら、大沢は一人話し続けた。張り詰めた果穂の緊張が少しずつ楽になってゆく。不思議な安堵感が果穂を包んでいた。

小さな町。休日。夕刻から夜へ…。CLOSE…車を停めて入れそうな店は、ことごとく閉まっていた。車内にこもった、煙草の残り香。誠のものとは違うそれは、果穂とひと回り違う大沢の年齢を、自然と感じさせてくれる。
「せっかくだからご馳走したかったけど…仕方ないな…送っていくよ」
カチカチとウインカーの音が耳をくすぐる。雨に濡れた町。誰もいない歩道。冷たそうな街灯。果穂の目に映る冬の景色…。
「お邪魔していいですか?」
返事もせず、煙草をくわえ火をつける大沢が、妙に…可愛いく思える。
「だめですか…」
果穂の声に大沢は優しく頷いた…。

少しきつい傾斜。軽トラのエンジンが足下で音を立てる。高台。2階建てのコーポ。薄暗い闇に、小さな町が包まれていく様を見下ろす。シリンダーに挿される鍵音。見た目より重いドア。深い茶色のフローリングが自然と心を落ち着かせてくれる。車内と同じ煙草の匂い。広めのリビング。大きめのソファ。もうひとつのドアの向こうが寝室であることが、すぐに分かるほどリビングには何も、ない。
「風邪引くから…シャワーした方がいい…」
“シャワーする?”という疑問符ではない、“した方がいい”という言い切りが、果穂の“気持ち”を見透かす様で、嬉しくも照れくさい…。
部屋に戻ってきた果穂に、大沢が優しい笑顔を浮かべる。果穂には大きすぎるジャージ。余った袖を振って、おどけて見せる果穂。小さなガラステーブル。陶製のマグカップが二つ。珈琲。取っ手ではなく、飲み口をわし掴む大沢に手が、果穂の目に色っぽく映る。ジーンズ。長袖の黒いTシャツ。裸足。大沢に感じる“男”。果穂はためらいもなく大沢の横に座る。深く沈むソファ。軽く身を乗り出し、ガラステーブルにカップを置く大沢。一つ、大きな息を吐いて再びソファに背を沈める。大沢の横顔。果穂は腕を回し、その頬に口づける。唇に感じる少し荒れた肌が心地いい…。
頬から耳へ…大沢の髪を掻き揚げながら、果穂は唇を滑らせる。顔の輪郭に沿って…キス…キス…キス。そのまま、唇に重ね合わそうとした瞬間、大沢の腕が果穂の背中を捕らえる。強い力でソファに引き戻される。代わって大沢の顔が果穂の正面に、来る。
「悪い子だ…」
右の手。左の乳房。下から上に、揉み上げられる。1度、2度…下から上に円を描きながら。吐息に雑じって小さな喘ぎが漏れる。覗き込む様な大沢の目が、果穂の体を熱くする。手の動きが止まる。生地1枚。大沢の親指と人指し指が、果穂の乳首を捕らえる。時折強める指先の力が、果穂の中から淫らな声を誘い出す…。
右に…左に…もて遊ぶ様に。大沢が、硬くなった果穂の乳首を、揺らす。顔が近付く。条件反射。果穂は、目を閉じ、その唇が触れるのを、待つ。喉。果穂が待った大沢の唇が触れたのは、顎を上げられた喉元。吸い付くでもなく、舐めるわけでもない。ただ大沢の唇は、喉元を滑る。巧みに顔の角度をずらし、濡れた果穂の髪を潜り、冷えた耳を口に含む。耳奥に達した舌先が、果穂の全身に信号を送る。生暖かい大沢の息が、果穂の羞恥心を剥ぎ取る。全身の力が抜けてゆく…。はっきりとした喘ぎ声が放たれる。細く、小さい、母音が果穂の口から込み上げては消えてゆく…。


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