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銀の羊の数え歌
【純愛 恋愛小説】

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銀の羊の数え歌−11−-1

 予想通り、喫茶店『OZ』にはそれほど時間もかからず到着出来た。
三台しか置けないようなスペースに車を駐車して、店のドアを開ける。頭の上の鈴がカランッと鳴ると同時に、真壁の、
「いらっしゃいませぇ」
という、気の抜けた声が僕を迎えた。
店内には一人として客はなく、静かなものだった。カウンターの中で洗い物をしていた真壁は、僕だと気づくなり、ちょっと意外そうな顔をしてから慌てて蛇口をしめた。
「よぉ、どうしたんだよ藍斗。研修は休みか?」
濡れた手を、流し台にかけてあるタオルで拭きながら、ヤツは言った。
「ああ、急に休みをもらったんで帰ってきたんだよ。また明日から仕事だけどな」
苦笑しながら、真壁と向かい合うようにスツールへ腰掛ける。
「コーヒーでいいか?」
真壁はすでにカップを僕の前において言った。
「サンキュー。お前、一人なのか?」
「マスター?さっき銀行に金おろしに行っちまったよ。寄り道もしてくるだろうから、しばらく帰ってこないだろうな」
「お前みたいのに任せるなんて、どういう店だよ。いったい」
「まったくだな」
真壁は肩をすくめて笑うと、コーヒーカップの隣りに、チーズケーキののった皿まで添えてくれた。マスターが留守の時はいつもこうだ。ケーキだのパスタだの、適当に食べるものまで出してきてくれる。僕は礼を言って、ケーキから口へ運んだ。考えてみたら、今日はまだ朝食もとっていない。
真壁と適当な話をしながら、全てをたいらげるまで十分とかからなかった。
汚れた食器を真壁が流しへ持って行く。それを見ながら僕は、
「ちょっとごめん」
と、ヤツにことわりを入れて、席を立った。 窓際まで歩き、再びポケットからPHSを取り出す。そろそろ琴菜の携帯もつながる頃だろう。そう思ってかけてみると、予想に反して、さっきと同じアナウンスが僕の神経を逆なでするように、ゆっくりと流れ出した。 電話を切って、唇を噛む。
琴菜のやつ、どこでなにしてるんだ。ひょっとして、電源を切っているのだろうか。
「亘理にかけてるのか?」
背中からの声に振り返ると、僕はスツールへ戻って、まぁな、と苦笑した。
「ったく、あいつなにしてんだか。せっかくもらった休日だから会おうと思ったのにさ。携帯がつながらないんだぜ?」
カウンターに、溶けるように突っ伏しながら僕はぼやいた。と、そこから奇妙な沈黙が流れ出して、なんとなく心配になった僕は顔をあげた。
「何だよ」
カウンターを挟んで正面に立つ真壁に向かって、きいてみる。ヤツはちょっと言いにくそうな顔で、あのさ、と声を落として言った。
「この間、店にきた時、お前らけんかしたんだろ?」
とたんに、わけもなく心臓がヒヤリとした。 真壁が知っているということは、琴菜が喋ったのだ。今まで、一度だって僕らのプライベートな内容を人に話したがらなかった、あの琴菜が。
「それが、どうしたんだよ」
冷静を装いながら、僕は続きを促した。
「昨日、きたんだ、亘理のやつ。コーヒー飲んで、すぐに帰ったけどさ」
僕は黙っていた。体中から鼓動がきこえた。 「その時にさ、あいつ、半泣きになりながら言ってたんだよ。藍斗とは、もう駄目かもしれないって」

途中、つながらない携帯にしつこくリダイヤルしながら車をとばし、気が付くと僕は琴菜の自宅の前まできてしまっていた。


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