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夏ときみ
【元彼 官能小説】

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夏ときみ-1

8月。四六時中わんわんと蝉の大合唱が鳴り響き、太陽は殺意を持たんかのごとく地表を照らし、大粒の汗が頬を伝う。ああ、やはり夏は嫌いだ。忘れられない思い出があるから。

『瑠花、ごめん。他に好きな人ができた。友達に戻ってください』

目を閉じれば、思い出すのは最愛の人の笑顔。もう二度と拝むことはないだろうけど。
ジーワジーワ、ミーンミンミン。
卒然、ぶわ、と生温い風が吹き、麦わらの帽子を宙に攫った。少し離れたところに無事着地したので、重い足を引きずって回収へ向かった。
帰ろう。これ以上ここにいたらどうにかなってしまいそうだった瑠花には、夏風の悪戯は有難く感じられた。

「っ、動け、足……!」

足元の影に数滴の水が落ちる。ひくっ、としゃっくりを上げ、とうとうその場にしゃがみ込んだ。とめどなく頬を伝う“汗”を止める方法は今の瑠花には分からなかったのだ。誰もいない辺鄙な公園であったのをいいことに、瑠花は終いには子どものように声を上げて泣いていた。



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結局、帰路に着いたのは夕方で、猛暑の日に焼けて赤くなった肌が痛々しかった。ただ、目の赤さを指摘されても日焼けを口実に出来たのには助かったが……。部屋へと行き、倒れるようにベッドに沈み込む。どうやら母親が布団を干したらしく、優しいお日様の匂いがした。伸びをしようと手を伸ばせば、硬い何かが手に当たった。

「あ、ケータイ」

半日以上放置していたケータイにはたくさんの通知が来ていた。寝転がりながらぼんやりとそれらを眺めていると、いちばん上にたった今来たメッセージが表示された。

[瑠花、今から会えない?]

無機物的な文字の羅列を見て溜め息を吐く。これがあの人だったらどれだけ嬉しかっただろうか、画面には“直くん”。送信主は全くの別人だった。
瑠花の中に占めるあの人の割合は、自分が思っていたよりも巨大なもので、だからそれを失った彼女の心がこんなにも荒むなど思ってもいなかった。つまり、彼女は喪失感のあまりに好きでもない男の手に縋ったのだ。

[大丈夫だよ]

受験生なんだから勉強すればどうかとも思ったが、既に第一志望校は合格範囲内だったので、少しくらいいいか、と返事をした。親に友達の家に行くと嘘を伝え、瑠花はさっき脱いだばかりのまだ体温の残るサンダルをつっかけた。
瑠花と「彼」が会うときは、だいたいは中間地点に位置する公園だった。いつものように公園に向かっていると、さらにメッセージを受信した。

[今どこ?]

いつもの公園に向かっている旨を伝えると、公園で落ち合った後自分の家に来て欲しいと告げられた。その時点で彼が何を思っているのかは容易に想像できたが、瑠花は敢えて無知な振りをした。この苦しさが少しの間でも紛らうのなら別に誰かに抱かれるくらい平気だった。
公園に着くと、貼り付けたような笑みをした彼がこちらに手を振った。彼は振った手をそのまま彼女に差し出し、手を繋いだ。絡めた彼の手は、いつもより少し汗ばんでいた。


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