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青い薔薇
【SM 官能小説】

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青い薔薇-4

あの人はぼくのキスに満足したように籐の椅子に深々と腰を下ろした。彼女の黒いハイヒールの尖った先端が、後ろ手に革枷をされたまま跪いたぼくの頬をなぞる。艶やかなエナメルの光沢はとても冷たい。スラリと伸びた美しい脚の付け根は薄く透けた黒い下着で覆われている。ぼくはあの人の腿の付け根に視線を這わせる。下着の中に透けて見える黒く繁った塊は、深く濃密な夜の森のようでもあり、無数の生きものが眠ったような細い繊毛の密生でもある。
あの人の漆黒が遠い眠りから目覚めるように青い光を孕みながら蠢いてくる。ベールに包まれたような割れ目が幾重にも重なった花びらのようになびき、まるで魔法にかけられたカーテンが開くように割れ目があらわになり、少しずつ呼吸を始め、形をなし、色あいを深めていく。それはまぎれもなくぼくがいつも見ていた青い薔薇の翳りだった。

 あの人は薄い下着を足先から抜き取り、床に放り投げた。その瞬間、柔らかな白肌に萌えた漆黒の繊毛が匂い立ち、ぼくを酔い惑わした。湿った陰毛がほつれ、微光を放ち、萌えあがっている。まるで夜風に息吹いたように匂いたち、漆黒の繊毛の奥に肉紅がふわりと浮いたように見える。ぼくはじっと目を凝らす。ああ、なんて麗しいあの人の場所なのだろうか。ぼくの心はとても切なく乱れてくる。今にも雫が滴りそうな肉の合わせ目をぼくが舌でなぞったら、あの人はなんて言うだろうか。ぼくは欲しかった……あの人の中から滲み出してくる甘い汁の感傷を。

あの人は、ぼくの肩を引き寄せ、脚を乗せるとぼくの顔を太腿で挟み、脚を巻きつけ、薄く笑った。それは、ぼくがあの人のものであることに安心している微笑みだった。あの人の太腿がぼくの顔を強く絞めてくる。腿肌の柔らかさと湿り気がぼくの頬にじわりと伝わってくる。ぼくの唇はあの人の漆黒に埋もれ、肉の合わせ目に沈み、ゆがんでいく。唇から洩れる息があの人の中にまぶされ、舌はぼくの性器になる。その舌先から、ぼくのどんな囁きも、どんな思いも、どんな欲望もあの人は吸い込むことができる。
伸びきったぼくの舌に湿った繊毛が絡むと、舌はさらに喘ぐように身悶えし、肉溝に埋もれていく。舌から彼女の体温が染み入り、ぼくの体はまるで彼女に犯されたように熱をもっていく。でも、あの人に媚びていく体とは違い、ペニスは萎んだままだ。とても性的なのに、性的でない純潔をぼくが感じたとき、去勢への思いはますます強くなる。永遠に純潔を感じるためにあの人に去勢されたい、ぼくを去勢できるのはあの人だけなのだ……あの人への焦がれる思いは、ペニスを失う欲望、肉体を失う欲望、そして永遠の感傷へとぼくを導く。不意に気がつくと、あの人は花鋏(はさみ)を手にしていた。そしてハサミの刃は、今にもぼくのペニスを挟もうとしていた………。


いつのまにか眠っていたのか、背中の窪みに汗が滲んでいるのを感じた。とても息苦しい夢だったのに、不思議なほど甘美なものがぼくを覆っていた。なぜか身体の中心にある柔らかい繊細な部分がとても冷たく萎えていた。触れても、撫でても、それは感覚というすべてのものを失い、肉体の一部というより、ぼくの心の残滓をそのまま露出しているように血流を含むことなく脆かった。
サイドテーブルの上に置いたままになっている鋏(はさみ)が月の光を浴びてキラキラと煌めいている。ハサミは彼女が薔薇といっしょに送ってくれたものだった。どうしてそんなことを彼女がしたのかわからない。
蒼い薔薇と鋏……いったいあの人はぼくに何を与えようとしているのだろうか。確かに夢の中の鋏は、ぼくのものを今にも切り落としてしまおうと肉幹の根元を挟んでいた。でもそれは硬質の金属でありながらあの人自身の化身であるような気がしている。ぼくのものは鋭いハサミの氷のような冷たさに、いや、あの人の冷酷な瞳の奥に光る刃に苛まれるように、ぬらぬらと亀頭の先端から焦燥に駆られた汁を滲ませていた。ハサミの刃が少しずつ狭まり、肉幹がしなるようにゆがみ、亀頭が喘ぐようにのけぞり、薄い包皮がぴんと張りつめ、刃が皮膚に喰い込もうとしていたあの人の夢………。

ぼくは夢の中で自分のペニスが切り落とされる瞬間を烈しく欲していた。あの人のために、あの人のものにぼくがなるために。純潔が引き裂かれ、純潔に回帰する瞬間、心と肉体が去勢される宝石の輝きのような瞬間、澱み続けていた情念が確かな煌めきを得る瞬間……それはぼくの欲望が充たされる美しい永遠の瞬間にほかならなかった。



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