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青い薔薇
【SM 官能小説】

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青い薔薇-3

秋のおだやかな風が窓のレースのカーテンをすり抜け、ぼくの頬をいつものように優しく撫でる。窓の外にひろがる暗い海、そして遠くに見えるのは散りばめられた船の灯りだろうか。
岬にある小さな二階建てのモダンな家はコンクリートで造られ、周りの樹木に埋もれるように蔦に覆われていた。小さな窓だけがある建物は、まるで水平線からやってくる敵を監視するための望楼(ぼうろう)のようでもあり、ぼくは心置きなくヴァイオリンの練習ができるこの部屋をとても気に入っている。
狭い螺旋階段をのぼった二階の部屋はそれほど広くはなく、天井や壁の色褪せた白さは過ぎ去った時間の痕を滲ませていた。部屋には窓に向けられたロッキングチェアと青い薔薇の花が活けられた花瓶、数々の楽譜がぎっしりと並べられた古い書棚、そしてぼくが弾かなければならない楽譜の譜面台だけが置かれていた。余分なものは何もなかった。この部屋のすべては、ぼくが夢を見るためだけのものとして存在していた。やがてこの部屋にいるぼくにあの人を想い描く至福の時間が訪れ、彼女の輪郭はぼくのときめきそのものになっていく。

夜になり窓から差してくる月灯りが、ロッキングチェアに座ったぼくの裸体を蒼白く照らし始め、身体の輪郭がぼんやりと浮かびあがる。月の光があの人との時間を吸い込み、宙に切り取っていく。この部屋にはいつも風と波の音だけがしていたけど、それはぼくを慰める旋律のように聞こえてくる。
ぼくはふと思った。あの人がぼくの頬に吐いた唾(つば)の甘酸っぱい香りは、ぼくに向けられたものでありながら、ほんとうは《ぼくのもの》ではないのかもしれない。ぼくはもっとあの人のものでありたかった。その胸が息苦しくなるような想いは、ぼくの中にいつもと違う感傷を生んだ。その奇妙な感傷に気がつくのに時間はかからなかった。なぜなら、ぼくはあの人に《去勢されなければならない》という欲望をあの人に気づかされたように感じたのだから。もちろん去勢と言っても、ぼくが男性器を失うわけでもなく、ただ、男としての《きわめて生理的で、性的な行為》を封印し、あの人に対する感傷だけが与えられるということなのかもしれない。そして何よりもあの人が、《ぼくを完璧に去勢する女性であるという敬虔な感傷》が、ぼくの純潔にまぶしい無垢の悦びを与えるということかもしれない。

以前、ぼくはあの人に、自分の感傷を告白しようと考えたことがある。でもあの人はきっとぼくの告白を小鳥の甘いさえずりのように聞き流し、退屈そうに笑って、背伸びをして、熟れすぎた胸のふくらみ微かに揺らすにちがいない。でもぼくは、あの人への恋心以上に至福の感傷を彼女にいだくことができるのだから。そして《去勢されたぼくのイデアを完全にあの人だけのものとして意識づける》ことができるのだから。

ぼくは目を閉じてあの人の感傷に浸る。黒い網のタイツが煙るようにあの人の白い脚肌を包み込んでいる。あの人は冷ややかに笑いながら、彼女のお尻にキスをするようにぼくに言った。あの人のお尻は、とても白く、広く、そして柔らかそうだった。黒い下着の細い紐が鎌のように鋭く深いお尻の裂け目に喰い込んでいる。その裂け目はぼくの息を吸い込み、お尻の混沌とした威圧を増幅させる。しっとりして、愛おしく、それなのに、ぼくに対してとても冷たく迫ってくる。 
後ろ手に革枷を嵌められたぼくは、跪いたままあの人のお尻に唇を寄せた。ぼくはあの人のお尻に心を込めてキスをする。それはぼくが彼女に捧げられた生贄(いけにえ)であることの証し(あかし)であり、十分な感傷が込められたものでなければならない。そうでなければあの人はけっして充たされないのだから。
でも、あの人はぼくのキスに満足しなかった。とても不機嫌になり、ぼくの顎に爪を喰い込ませ、キスも満足にできない幼い坊やだとぼくをなじった。そしてぼくを床に仰向けに横たえさせると、ぼくの顔の上で脚を開き、お尻を押しつけるように跨った。あの人のお尻を押しつけられたぼくの頬がゆがみ、息が苦しくなる。
あの人はぼくにキスのやり方をおしえてあげると言って笑った。彼女のお尻の重みがどんどんぼくの頬に増してくる。圧迫されたぼくの顔が甘い暗がりにゆがみ、唇が水面に浮かんだ金魚のようにパクパクと喘ぎ、口の中でふくらんだ呼吸は彼女のお尻の切れ目に埋もれるようにまどろむ。
ぼくは胸を掻き毟るような愛おしさに充ちたキスを自分がしていることに気がつく。あの人が求めているキスがどんなものなのか、ぼくは初めて知らされたのだ。ぼくの肉体の中心にあるものが堅くなり、そそり立っていくのを感じた。あの人の指が肉幹をはじいた。はしゃぐようなあの人の笑い声が聞こえた。ぼくの顔はあの人のお尻で圧迫され、窒息させられるように喘ぎ続ける。そしてぼくは射精した。あの人が求めるキスはぼくの射精だったのだ……。



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