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夏のこと
【少年/少女 恋愛小説】

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夏のこと-1

私たちは今日の花火とともに終わる。
嫌いあって終わるんじゃない。
私たちには、どんなに離れていても、
愛を感じるとか、相手を思いやるとかそういう自信がない。
その上、その事を面と向かって言えずさらけだすこともしない。
そのことをお互いに感じていた。
だから、いつまでたっても別れることを言い出せない私たちが
嫌いあうようになる前に、
もっと辛くなる前に、
その前に私が
「これからいっぱい愛し合って、夏の花火を見終わったら、もうさよならしよう」
って、笑顔で言ったんだ。
その時の逸は、
「そうだね」って。
「言ってくれてありがとう」って。
逸の顔は笑ってた。
でも、少し泣きそうな空気をまとってた。
そんな逸を見たくなくて、でも抱き締めてあげたくて
体が逸の所へいきそうだったけど、心がそれをとめた。
もどかしかった。

ただ私たちがお互いの夢を追うだけ。
交わらない別々の道を行くだけ。
それだけなのに。
踏みしめている大地は繋がっているのに。
見上げる空は繋がっているのに。
同じ地球の上にいるのに。
逸と離れたくなくて、
いろんな事を考えた。
いっぱい泣いた。
でも、自分が今すべき事は
逸と楽しかったねって別れることだ。
悲しい思い出は作らない。


それからの私たちはお互いをもっと大切に思った。
周りからひやかされても、
一緒にいる今をおもいっきり楽しんだ。
いっぱい逸に愛を注いで、
逸から愛を注がれて、
幸せだった。
それも今日が最後。


携帯が鳴る。
この着うたは逸。
この日のために、浴衣を新しくして、
軽く化粧して、
髪を可愛くして、
今出来る最高の私にした。
しばらくは逸が私を忘れないように。

『もしもし、梓?準備出来たらおいで。いつもの待ち合わせ場所にいるから』
『うん、すぐ行くね』
今日私たちが終わってしまうことは、
決して悲しいことじゃないと信じてる。
ふとした時に、逸を思い出したら、笑えるはずだ。
そして、愛を思い出すだろう。
しばらくは心が痛んでも、
会いたいと思っても。


鏡の前で逸への笑顔を作って、
外へ飛び出す。
そして、愛する逸の元へ。


今日は、あたしたちの新たなスタート。


バイバイ、逸。


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