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キョウゴ
【その他 官能小説】

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アヤノ-5

栄祐は犯罪自体を憎んではいるが、それに至るまでには本人にしか知り得ない複雑な状況が在ることを知っている。したがって、加害者となった人物を必要以上に苦しめたり、不安を煽る様な威しを用いた取り調べは行わない。
同僚のベテラン刑事達から見れば、甘いと感じるかも知れないが、俺はそんな所が栄祐の長所だと思っていた。

だが、たとえ栄祐が取り調べに携っていたとしても、加害女性が行き場のない不安や、恐怖を抱えている事にきっと変わりは無い。
俺の今回の主な仕事は、そんな不安や恐怖を少しでも和らげてやる事になるだろう。

本来ならば、今回発見された薬物に関する情報収集が仕事としては最も優先されるはずだ。
だが今回は発見された薬物の中にはダークネスが含まれている。その為、それに関する聴取はおそらくINCな出向中の“おっかない姉さん”が当たる事になるだろう。

目黒署に着くと、俺は警察による加害女性への取り調べが一通り済んだ事を知らされた。
今は栄祐と共に取調室で俺を待っていると言う。
その事を伝えてくれた刑事に礼を言い、俺は取調室へと向かう。

「―コンコンッ」
部屋のドアを静かにノックすると、
「恭吾さん?どうぞ。」
と言う栄祐の声がノックに応えた。
「遅くなって悪いな。」
栄祐は構わないですよ、とでも言う様に手を宙でヒラヒラさせた。
「詳しい薬物検査の結果は出たのか?」
俺は小声で尋ねた。
「ええ。まだ最終結果ではないですが、彼女が自ら接種したにしては少な過ぎる数値だった様です。やはりダークネスは間接的に体内に入り込んだ物でしょう。」
「と言う事は、彼女が罪に問われる可能性は低そうだな。」
それを知り、俺は正直ホッとした。今目の前にいる女性は、まだ幼さの残る少女だ。そんな彼女がこれからの人生に、罪と言う暗い負い目を背負って生きていかなければならないなんて酷いにも程がある。
「はい。検察の方も、ダークネスの成分による一種の錯乱状態だったとみて、彼女を起訴にはもちこまないんじゃないですかね。」
俺は栄祐の言葉に頷くと、彼女の向かいの椅子に腰を下ろした。
「最初に知っておいて欲しいんだが、俺はこのお兄さんとはちょっと仕事が違うんだ。」彼女は真っ直ぐに俺を見つめた。
透き通った大きな瞳がとても印象的な女の子だった。
通った鼻筋、卵型の輪郭、そして真っ直ぐに俺を見つめる彼女の大きな瞳。そんな彼女に俺は、自分の無力さ故に失ってしまった、もう戻らぬ人の面影を重ねていた。
その人は俺にとって、忘れる事が出来ない人だ。
いや、生涯忘れたくない、忘れる事は許されない人なのだ。
今俺の目の前にいる彼女の心を救う事が出来たなら、今はもう手の届かない場所にいる、忘れられない彼女への償いになるかも知れない。俺はそんな、何の根拠も無い想いを抱いた。
「俺は麻薬取締官って言う仕事をしていてね?麻薬の製造や密売を摘発したり、麻薬による中毒に苦しむ人を助ける仕事なんだ。」
俺は彼女に言った。“麻薬”と言う言葉が俺の口から出た時、俺は彼女の表情が沈んだ事に気付いた。
俺は君を助けたいんだ…、そう言葉を続ける前に、彼女の大きな瞳からは大粒の涙が溢れ出した。
『グスッ、うっ、ご…めんなさい。わた…し、今まで彼が……ドラッグに手を出していたなんて………、知ら、なくて……。』
彼女は途切れ途切れに言った。

―泣かせるつもりはなかったんだ、ごめんよ。―

俺は心の中で呟いた。
そして彼女の髪に、そっと掌を乗せた。
「泣かないで。俺は君を責めに来たんじゃないんだ。これから俺の話す事を、しっかり聞いてくれるかな?」
俺の乗せた掌に気付くと、彼女は伏せていた顔を上げ、再び大きな瞳で俺を見つめた。
吸い込まれてしまいそうな瞳だった。


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