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天神様は恋も占う?
【青春 恋愛小説】

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清爽なキッス-9

「あー、終わっちゃったかぁ」と梓は少し残念がって言った。
「でも、2点入ったじゃない! このまま1点も入んなかったらどうしようかと思ったもん。すごいよね、純一くん」
 言われてみると其の通り、試合前半の様子を見ていると、相手を打てないし、しかも相手には打たれるしで、1点さえも取れないような気がしていた。
「でしょ? だって“私の”純一だもん!」
 “私の”純一かどうかは知らないが、彼氏が褒められたこともあって少々ご満悦な梓だ。
 そして、純一、隼斗ら月雁高校のナインは、8回のディフェンスにつくため、自らの守備位置に颯爽と走っていくのであった。

 また、である。ベンチで応援している小林監督も有河を含む諸先輩も、これで何度目ともわからないピンチ――尤も月雁はすべてのイニングでピンチを迎えているので、詳しく言えば8回目なのだが――に頭を抱えた。結局月雁高校は、フォアボールとヒットで走者を1、3塁としたところでセンターとセカンドのほぼ中間点に落下する極めて不運なヒットを浴び、またしても1点を謙譲してしまった。そして、先程純一にヒットを打たれた新井が3塁線に送りバントをした。
 現在の状況は1アウトで走者2、3塁。
「しっかり守らないと……」。真奈が諸手を握り締めながら零したこの言の葉こそ、月雁高校の現状を象徴するのにピタリと合致するものだ。だが。
「オッケー、オッケー! ピッチャー気楽に!」と代走からそのままセカンドを守っている下川部が。
「絶対取ってやるからな!」と純一も声を張る。
 そして他のメンバーにも共通して言えることは、バッテリーを盛り立てようと皆が頻りに声を掛けていることだ。試合の最初、3年生だけが出ていたときには全く見られなかった傾向である。
 バックを守る純一たちに視線を送り、一度深呼吸をして打者と正対する。伸びやかな投球フォームから相手バッターに第1球目を放り込んだ。
『カァン!』
 打棒一閃。白球は見る見る内に虚空へと舞い上がっていく。少し高く上がりすぎたそれは、しかしその高度を保つようにしながら隼斗の守備位置である右翼へと飛んでいく。その様子を背後にしつつ隼斗は走る。走りに走って、隼斗が打球を取ったのはホームベースからは100メートル以上も離れたところだった。
 アウトカウントはまだ1。走者は打球の行方を見て早々に3塁を踏み、ライト――隼斗である――が捕球するのを確認するとホームベースに向かって疾走した。野球用語で言うところの“タッチアップ”である。
 ――あれだけ右翼の深い位置まで飛べば、送球はまず間に合うわけない“だろう”――
 思考が3塁走者の頭を過ぎる。確かにそうかもしれない。
だが、スポーツにおいて、自らの仮定はそのまま自らの首を締め付けるものになることがある。その仮定は大概がその本人にとって好ましい事象であるが故、目算通り行かなかった場合、事態は急転直下するものだ。
 なぜなら、予測ができない、ということが、スポーツの醍醐味なのだから……。
 右翼への大飛球を捕り、隼斗は一歩の助走の後にバックホームを敢行した。通常高校野球では、余程の“肩”を持たない限り直接のバックホームを試みることは無い。隼斗にはその自信が有った。ボールは隼斗の右腕によって超絶的な初速度を与えられ、それを少しも落とすことなく“真っ直ぐに”キャッチャーへと向かっていった。そしてそれは、地面に接触することなく、ピンポイントにキャッチャーミットに吸い込まれるが如く収まり、キャッチャーはランナーを待ち構える。――悠々アウトだ。
「チェンジ!」――ダブルプレーの成立だ。
 これに沸いたのは月雁高校のベンチだ。
「なんだ、あの送球は!?」
「なかなかやるなー、小松島は」
 もちろん、そのベンチの上に陣取る“応援団”も同様だ。
「すっごいね、隼斗くんも! ね、真奈!」
「うん。流石は“私の”隼ちゃん!」
 だから、“私の”かどうかは知らない。だが、このワンプレイによって月雁高校のモチベーションは、この試合の中で最高潮に達したのは紛れも無い事実であろう。
「ゲームセット!」
主審のよく通る声が響く。


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