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天神様は恋も占う?
【青春 恋愛小説】

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清爽なキッス-10

15対3。月雁高校は、最終回に、この回の先頭打者であり、2年生部員の中で一番の強打の持ち主である高畠玲音【たかばたけ・れお】にソロホームランが飛び出したものの、後続の打者が華麗に打ち取られた。無念ともいえる点数差での敗北だった。
「今日はお疲れ様だったな」
 練習終了後の恒例となっている小林監督の“本日の講評”の始まりだ。
「今日の対戦相手は強い学校だったが……、どうだ? 厳しかったか?」
 部員は一様に頷いた。小さく頷く者がほとんどだったが、中には今日先発したピッチャーなど、なかなかグロッキーで項垂れたままの者もいた。
「うん、点差も開いちまったから結果だけ見れば……、な。特に前半、4回位で試合を決められてしまった感じもある。だけど」
 小林は一呼吸分ほど、間を空けた。そして同時にそれまでの厳しさを含んだ表情から、一転して穏やかなものへと変わった。部員は一瞬の言葉の間で皆監督に注目をする。
「俺はそんなにダメだとは思わなかった。実際、試合の後半ではチャンスを作ってから得点することもできたし、大きなピンチも最小失点で切り抜けられたからな。だから安心しろ、とまでは言えないが、そんなに悲観的に見る必要はないと思うぞ」
 小林の話を聞きながら、純一はチラリとだけ菊水館高校のベンチを見やった。すると菊水館の監督が、こちら側を腕組みしながら凝視しているように、純一の目に映った。部員らはほとんどが帰路に就き、残っている者も既に支度を済ませているのに、である。
 てっきり、
その後も小林は、もう一言二言同様の件を話し、そのまま現地解散となった。

「今日はありがとな、応援に来てくれて」
現地解散と言われて、“応援団”と一緒に帰らない手は無い――。そう言わんばかりに、純一は解散直後に梓と真奈の元に向かった。そして現在は既に球場を後にして、自宅へと歩みを進めている。梓は球場まで歩いてきたのだが、純一が大きい部活用のバッグ――側面には“月雁高校”と大きくネームが入っている――を持ってきているため、純一は乗ってきた自転車を押し梓はその隣を寄り添うようにしている。二人乗りで帰れば、とも梓は思ったが、試合を終えたばかりで疲労が溜まっているはずの純一にそれを持ちかけることはできなかった。
「ううん、私が来たがっただけだもん、気にしないで」と、梓は応えた。
彼女の表情は笑みに満ちていたものの、反面、純一の表情は何処か浮かないものだった。
太陽は既に南中を通過し、歩道を並んで歩く二人をやや西側上空から照らしている。照りつける日差しの強さは、まもなく訪れる夏のそれのようだ。
「――今日はいいもの見られたな〜」
 不意に呟く梓。純一が自分の横を見ると、満面の笑みを浮かべている梓が視界に飛び込んできた。
「どうした?」と純一が尋ねると、
「だって純一、打って守って大活躍だったじゃない」と応えが返ってきた。
 梓は心底から満足そうな顔をしているが、まだやはり純一の気持ちは曇っている。
 確かに。強い打球を捌けたし、ヒットも打つことができた。あの2つのプレーは巧く出来たと思える。それによってピンチから脱出できたし、またチームに2点を記録することが出来た。
 だが、試合には必ず“勝敗”というものが付き纏う。勝利者には、勝利した時にしか味わうことの出来ない素晴らしき歓喜があり、それは決して敗者には分り得ない。歓喜の中に入り込むことの出来ない敗者は、時としてあまりに残酷な敗北感に打ちひしがれる。
どれだけ活躍出来たとしても――。
「でも勝てなかったからな……」
 そう思うと、純一はこのように答えるしかなかった。梓に対する謝罪の気持ちが表情にまで滲み出ている。どれだけ強豪を相手にしていたとしても、勝負には勝ちたかった。
「何言ってんのさ!」
 途端、梓が声を張り上げる。と、同時に右肩を思いっきり張られる。――地味ながら痛い。
「そこまで悔しがらなくたっていいじゃない。だって強い学校だったんでしょ?」
 やはりニコニコとして梓は言う。しかし一転して、表情が凛としたものに変わる。同時に、二人の背後から一陣の風が通り抜けた。


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