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七日目のプール
【青春 恋愛小説】

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ライラック-1

忘れ物なんてしなければよかった。『もしかして』なんて言葉は希望のようで残酷だ。

少し薄暗い曇り空、電気もつけてない教室。なのにその二人が…柏木涼と美音がはっきりと見えた。目をこらして見るべきじゃなかったのに。
ごくり、と喉を嫌なぬるさが通る。
今日は風もなくて暑いはずなのに妙に悪寒がした。

「涼…こわいよ。後悔しそうで、不安なの」
廊下からでは、ましてやドアも閉まっているから美音の声は聞こえない。ドアの小さなガラスから見ると美音は涙目で柏木を見上げていた。

「…もう遅いよ」

二人の姿が重なって、俺は立ち尽くしたまま、自分が嫌な汗をかいていることに気が付いた。呼吸が止まりかけて、俺の世界も一瞬止まる。
ちら、と柏木がこっちを見たような気がしてどきりとした。慌ててその場を離れようと駆け出す。柏木は、笑っていたようにも見えた。

あの情景を思い出したくなくて、何も考えたくなくて。その日は現実から目を背けるように眠った。例えいくら意識をなくしても記憶はこびりついてとれないのに。臆病者だから、あの場に割って入って怒鳴る勇気なんてない。怒りよりも先に何かの間違いであってほしいという現実逃避の思いでいっぱいだった。

けど、そんな臆病な気持ちよりも、もっと強い気持ち…美音の気持ちを考えてしまう。美音が望んでいるのはきっと。




「昨日の放課後、何してたの?」
小柄な美音がいつもよりずっと小さく見えて、消えてしまいそうだった。木々達が風でざわめいて、蝉の声がうるさい。最後かもしれないんだ、もう少し黙っていてほしい。

「…何で…そんなこと聞くの…?」
泣きそうな声だった。俺もつられて泣きそうになるから、わざと視線を合わせなかった。

「見たんだ、柏木と……、キスしてるとこ」
美音は黙ったまま、俺を見つめていた。何かを待っているようにも見える。



「……だからさ、別れてほしいんだ」

期待されてるであろう言葉を言ってやる。思えばこの時まで俺は美音を甘やかしていた。まだ美音を愛してるから。別れるその時までは、いい彼氏でいてあげるよ。


美音はこくりと頷いて、俺に何を言うでもなく、振り返りもせずに立ち去っていった。


眉間に皺を寄せ、心を落ち着かせるために長く息を吐く。絶望の味を噛み締めながら、時折浮かんでくる美音の顔に気が狂いそうだ。誰か消してくれ。


夕闇の中を走って、走って。いつのまにか以前美音と来たことがある公園の前にいた。


『裕也、裕也。見て見て、猫がいる。黒と白の子猫だよ』
小さな子猫を抱き上げ、うれしそうに笑う美音の姿が今でも目に焼き付いて離れない。


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