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愛人
【SM 官能小説】

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愛人-9

「ぼくは、自分がサディストなのか、マゾヒストなのかわからない。少なくともきみという女性をこうしてぼくのものにしているというのに」
そう言った彼は、わたしの軀(からだ)に潜む曖昧な部分のすべてを嗅ぎ取るように巧みにわたしの肌を指でなぞった。彼の指が肌に優雅に紋様を描いていく。触れてくる彼の指によって、わたしの肉体が息を吹き返されるように甦ってくることが不思議だった。
「かつてのきみは、男の背中に鞭を振り下ろしても欲情しなかった……」
「わたしは、鞭を求める男に作られたピエロみたいな女だったわ。わたしが欲情するのではなく、男が欲情するために作られる女……」
「そういう意味では、きみはマゾヒストだったというわけだ。ぼくが想っていたとおりの女性だったということに安心したよ」

いつものようにアイマスクをされたわたしの肌に津村さんの息と指の体温が這ってくる。彼の指が胸に触れた。それはとても愛おしく、冷酷だった。腕が頭の上に伸び、縄で縛られた手首が天井の滑車に絡んだ鎖で引き上げられる。ギシギシと不気味な滑車の音が部屋に反響する。次の瞬間、わたしの体は伸び切り、湿った空気の中にふわりと浮いた。わたしはライトの光に炙られながら宙吊りにされる。背中がのけ反り、太腿の内側が強ばり、わたしの足指の先がわずかに床に触れるか、触れないほどの痛々しい体勢は、わたしを十分に無防備にさせ、彼を満足させる。

彼が手にした鞭が、床にたたきつけられる音がした……。
次の瞬間、澱んだ空気がしなる鞭に裂かれた。肌に鋭い痛みが走った。自分の肉体がこんな美しい音をたてるとは思ってもいなかった。からだは弓なりに反り、たわみ、きりきりと空気の中で軋むように身悶えた。何度なく身体に叩きつけられる鞭……髪が乱れ、腕がのびきり、自分の胸や腹、尻が波打ち、のたうつのがわかる。肌の痛みはじわじわと甘美な疼きに変わってくる。
アイマスクをされたわたしは、どこから襲ってくるのかわからない彼の鞭に心地よく怯え、その怯えはどんどんわたしを果てることのない快感に引きずり込んでいく。そのとき、わたしの脳裏の中で、あの森の樹木からしたたる雫の音がした。雫は弾け、純粋な痛みに充ちた音がわたしの心と肉体の奥で木霊した。

烈しい鞭の痛みで意識は朧だった。烈しい鞭の嵐によって虐げられたわたしの肉体は床に引きずり降ろされ、冷たい大理石の床に崩れるように仰向けにされた。わたしは覆いかぶさってきた彼の身体の重みを感じた。彼の唇がわたしの肌に刻まれた赤い鞭の条痕を愛おしくなぞり、這いまわった。彼の唇に含んだ唾液が遠い時間に押しやられた肉体の記憶を融かしていく。
彼はわたしの脚を開かせ、股間に顔を埋めた。彼の舌は、まるで狡猾な生きもののように蠢き、わたしの割れ目を注意深く探り、肉唇を残忍にえぐり、熱く絡みついた。わたしは身を揉むようにのけ反り、少しずつ侵入してくる彼の舌に羞恥心を煽られ、責め立てられるように苛まれていった。
肉芽を唇で吸いあげられたとき、わたしの中心のごく小さな部分が火で炙られたように熱くなり、肉襞の痙攣は子宮の奥から骨に、そして体のあらゆる部分にうねるように拡がり、痺れさせた。そのとき、二十数年前のあのときの記憶ははっきりと甦ってきた。十七歳のわたしの割れ目を無理やり引き裂き、体の中心を刺し抜いたものの先端からわたしの肉奥深くへ放たれた熱い飛沫が、いったい誰のものだったのかを……。




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