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The eighth dream
【女性向け 官能小説】

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The eighth dream-2

幸平のバンドは去年、小さなプロダクションの社長と知り合ったことを機に、色々なイベントや行事に呼ばれるようなになった。それまでのライブハウス一辺倒だった活動は、大きく変わった。
主催者に要請されれば、ハワイアンからロカビリー、挙げ句には歌謡曲まで、律儀にプレイした。幸平を素敵だなと思うのは、それすらも楽しんで受け入れていること。ギャラを“お小遣い”と呼び、幸平は何処に行っても、どんなステージでも、客が居ようが居まいが、仲間達と音楽を楽しむ。
夢を諦めた故の“仕方なさ”ではない。未練ではなく純粋に好きだという自信。それが誰の目にも伝わるから、幸平は素敵だ。お金のためにと、割り切ってる刹那さもなく、責任感から生まれる律儀さなど微塵も感じさせないステージ。楽しむ、という誰にでも出来そうで出来ないことを、幸平は演ってみせる。
だから、幸平は、モテる…。
左の太腿に、いつの間にか、柔らかな体温が、ある。深く目を閉じたままの横顔。静かに、ゆっくりと、滑り始める、幸平の右の掌。
「終わったら…しような?」
軽く指先に力を込め、そう呟く。やや腿の内側に掌を滑り込ませて、そう呟く。
「今日はさ、何曲かオリジナルを演っていいって言われてんだ…だから…終わったら、しような?」
本当に自分のプレイしたい曲。本来の自分の音楽。例え数曲、数分でも、それを観客の前で楽しめた後の幸平は、揺ぎなく激しい欲情をぶつけてくる。時にそれは、閉じ込めていた獣を放つように。時にそれは、潜り続けた深海から浮上し、海面に顔を出した呼吸の様に。がむしゃらに吸い続けられる乳房には、いつも血の滲む刻印が残されるほどに…。
「お、来た来た」
ミラーに映る傷だらけのステーションワゴン。小刻みなクラクションでリズムを打つ。ドアを開け、飛び出すように出てゆく幸平。左の太腿にあった温もりが風にさらわれる。車内に満ちていた幸平の匂いが風に奪われる。左の太腿にあった幸平の掌の湿り気が今さら無性に愛しくなる…。


小さなホール。子供に老人、主婦に議員。まばらな客席。町の式典。
幾つかのセレモニーを終え、余興として幸平のバンドは招かれた。日舞やジャズダンス、コーラス隊に吹奏楽。余興と呼ぶには程遠い発表会の様相のステージ。その雑多な空気の最後に、幸平のバンドは登場した。私はまばらな客席の中央に座り、正面に幸平を見る。メンバーと楽しそうに音を合わせる幸平を見る。いつも変わらない笑みが、そこにある。
「こーへー」
「幸平さん」
周囲に遠慮しながらも、恥ずかしがりながらも、呼ばずにいられない声が最前列から起きる。こめかみ辺りで車の中で囁いた幸平の言葉が甦る…“どうしたら、ちゃんと諦めてくれるかなぁ”。元々ライブハウスでも人気はあったし、こうしてイベントに招かれるようになってから、幸平のバンドには駆けつけるファンがいた。確実に増えていた。それだけなら喜ばしいことなのかもしれない。ただ、距離感が悩ましかった。メジャーデビューしてるわけでもなく、大勢のファンがいるわけじゃない。普段は普通に会社で働き、人気があると言ってもライブハウスでは数十人が集まる程度。この距離感が、幸平を身近な存在にし、恋愛感情に近い感情をファンに抱かせていた。
手を伸ばせば、届く。手を伸ばしたら、届いてしまった私のように…。
「今日はお招きいただいて、どうもです」
照れたように幸平が挨拶する。
「最後まで楽しんでってください」
嬉しそうに幸平が声を掛ける。こんな歌が何故売れるんだろうねと、TVを見ながら呟いた曲を、幸平は歌い始める。それでも楽しそうに、歌い始める。
ステージ前。陣取ったファンの女の子達が立ち上がり、幸平の歌に呼応する。私はフっと息を一つ吐いて、客席を見渡す。中央に座った自分より後ろ。最後列や、客席の隅を、丹念に見渡す。
前列に陣取る女の子達に“害”がないことを知っている。ファンの域を出て、幸平の全てを受け入れたいと願うタイプは、遠くから見ようとする。目立たないように、でも、いつも必ず。後ろや、隅に、居る。
私が、そうだったように…。
愛は、騒いだりしない。幸平の歌声を聞くだけで満たされ、柔らかな乳房に微熱に起こし、幸平の汗に濡れた前髪を見るだけで、ショーツの中心を湿らせるものだから。時折見せる幸平の笑みに、膝が震える様なエクスタシーを覚えるのだから…。
私が、そうだったように…。愛は、はしたなく騒いだりしない。隠し持った淫美な欲望に身を焦がし、一途なまでに夢と願いを妄想に混ぜ合わせる。例え、それが、一方的な想いだとしても。


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