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『月光〜届かざる想い〜』
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『月光〜届かざる想い〜』-3

ぼーっとしている間に18時を過ぎてしまった。
公園で、何故かオジサン達が将棋大会を始め出した。
若者が踊っている。ガラのあまりよろしくない人々も集まってきた。
ずっと馴染んできたはずの公園なのに、私はこの人たちの誰も知らない。
この人たちの誰もが、私を知らない。
ここはもう私の、私と佐倉の居場所ではないのだ。

22時を過ぎた頃、
「やっぱりここか。」
初めてそこに、慣れ親しんだ顔が現れた。
「佳代子……」
「探したよ。」
黙って手をひかれ、電車に乗せられた。
東武東上線。
景色がどんどん田舎になっていく。
「もうお葬式、終っているでしょ?」
佳代子は答えてくれない。
小さな駅で降りると、迷いない足取りで佳代子は私をその家へと導いた。
インターホンを押す。
ビーという煩い音。
玄関の戸が開けられると、中から2人の女が私を見下ろしていた。
慌てて私は口を開いた。
「この度はご愁傷……」
「美波さん?」
初老の婦人…佐倉の母親が私のつまらない挨拶を遮り、泣きそうな目で見つめてきた。
何故私の名前を知っているのか、そして顔も……
そう疑問に思って顔を上げると、もう一人の女と目が合った。
美しく気丈な佐倉の婚約者。
1年前、佐倉の隣で優越感に彩られていたその瞳が、醜く歪んでいた。
憎しみを凝縮させ、それを隠そうともしていない。
理由が分からず隣の佳代子を見ると、佳代子は困ったように佐倉の母親を目で促した。
佐倉の母親は黙って「それ」を私に差し出す。
私は無言で薄い半紙に包まれた「それ」を、開いた。
写真だった。
私の。
結婚式の時の写真。
佐倉が具合が悪いと言って来てくれなかった……。
「息子が死ぬ時に胸ポケットに入れていたものです。」
横を向くと、黙って佳代子が頷いた。
佳代子があげた写真らしい。
佐倉は私を密かに好きだったのでは?なんて甘い想像は一切出てこなかった。
それくらい佐倉は私を愛さず、婚約者を愛していたから。
佐倉はなんでそんなものわざわざ持って死んだのか。恋人の写真を持って死ねばいいものを……
あぁ……
思い出してしまった。
思い出したくなんてなかったのに…。

それは私達が共通して大好きだった歌歌いが死んだ日だった。
追悼式だと言って酒を飲み、例によって飲み過ぎて、公園で酔いを覚ましている時。
「いつかうちらも死ぬんだね。」
ぼそりと佐倉がこぼした。
木々の合間から月光が差し込んでいた。
あれは卒業してから4年目の夏だった。佐倉は仕事がつらいと笑いながら言い、アイロンのしっかりかかったハンカチでしきりに汗を拭っていた。
「生まれた日は同じでも、死ぬ日は違うのだろうね。」
寂しそうに呟くと、
「生まれる日は違っても、死ぬ日は一緒だって友情を誓った奴らがいたな、三国志で。結局3人ともバラバラに死んだけどさ。」
と佐倉は茶化した。
「死ぬまで、私達の関係は変わらないのかな?」
「変わらないだろうね。」
それは嬉しいことでもあり、哀しいことでもある気がした。


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