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【箱庭の住人達〜荊の苑〜】
【学園物 官能小説】

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第四話-1

  ◆  ◆  ◆

「ねえ。今度の土曜、天気が良かったらどこかに行かない?」
「そうだなあ……」
 図書館からの帰り、立ち寄ったファストフード店でフライドポテトを二人で摘む。パーテーションに仕切られた二人掛けの席で肩を寄せ、孝顕と兼山は次の予定について話しあっていた。中学生の懐事情など高が知れている。派手に遊び歩く訳にも行かないので、どうやって過ごすか知恵を絞るしかない。
 少女はスマートフォンで情報サイトを開き、真剣な顔で目を通している。真面目で楽しげな横顔を、孝顕はジュースを飲みながら眺めていた。
 不意に呼び出し音が響いた。
 手を止めた兼山が隣の孝顕を見つめる。電子音が続いているのになぜか彼は知らぬ振りをしていた。
「……いいの?」
 鳴り続ける音に居たたまれなくなった少女に問われ、ようやく孝顕は動いた。ジャケットの胸ポケットから携帯を少しだけ引き出し、ちらりと視線を走らせると戻してしまう。
「うん。大丈夫、後でかけ直せばいいから」
 言い終わって間もなく、根負けしたように音が途切れた。
「今は、兼山さんといる時間だし」
 口にしてから、ふいと顔を逸らして俯く。ふにふにと口元が蠢いているのは照れ隠しだろうか。
 孝顕は時折、今のような素振りを見せることがある。すぐに顔を逸らしてしまうので表情は分り難いが、こういう時の孝顕はかなり可愛い。もっと見ていたくて、兼山は失礼だと思いつつもじっくりと見つめてしまう。
 奇妙な沈黙が流れはじめ、孝顕がちらりと目を動かした。自分を見つめる兼山の視線とまともにぶつかる。
「――っ!」
 今度は兼山が頬を紅く染めて視線を彷徨わせた。あたふたと落ち着かなくなった様子が、孝顕には小鳥のように思えて愛くるしい。
 むず痒くなるような甘くて緩い無言のやり取りに、口元だけだった孝顕の笑みは自然なものへ変わっていった。
 一時、携帯のことを脳裏から消し去る。

 着信ランプの色は佐伯。
 今日の事は、彼女に話していない──。

  ◆  ◆  ◆


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