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『BLUE 青の季節』
【青春 恋愛小説】

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『BLUE 青の季節』-16

「・・・ごめんね、びっくりした?」

――そういって遥はいつもみたいにすませた笑顔を信に向けた。
それから彼女は淡々と喋りはじめた。
急に決まった手術のこと、説明を受けてもよく分からないままの病気のこと、医者に言われた、切らなければ助からないということばだけが遥の耳に残ったという。

「実感、湧かないよね。いきなりこんなの見せられてもさ」

遥は手をのばすと右足の付け根を探すようにさすった。失くなったはずのその先は、もう彼女にしか見えていない。

「私も、そうなんだ。朝、目が覚めたらあるはずのものがなくて、嘘みたいで・・・・ねえ、それでも」


私、泳げるかな


長い、沈黙の後、搾りだすように言った遥の言葉は。震えてて。
聞き取れないほど、小さくて。
・・・胸が痛くて。
せまい病室の天井に、いとも簡単に吸い込まれていった。



「よっ、久しぶり」

病室を出ると聞き慣れた声がした。顔を上げると美津子が申し訳なさそうに壁にもたれて立っている。
信と目が合うと、いつもの明るい口調で話し掛けてきた。

「また見舞い、感心ね。毎日のように来てるんだって?」

「そうでもねーよ」

「ちょうどいいや。終わったんなら、一緒に帰ろうよ」

といって信の腕を取ると横に並んで歩きだした。

「おめーはいいのか、遥の顔見なくて」

「あ、あたしはいいんだっ。もう遅いし、また今度、ね・・・」

そういって、美津子はちょっと笑うと目を伏せた。
辺りはとっくに暗くなり非常灯の薄い明かりなんかじゃ美津子の表情を窺い知ることはできない。

「それにさ、信もいい加減本腰入れて練習しないと。ダメだよ。もうすぐインターハイだよ。タケルや私がいくら勝ったって、遥は喜ばないんだからね。 アンタがいつまでたってものんびりしてるから・・・・」

そこまで言って、美津子は口をつぐんだ。信は隣を見ようとはしなかった。

エレベーターは故障中で、仕方なく階段を使って下りた。美津子は黙ったままだった。信も口をきかなかった。
ただ長い沈黙のなかに、伝えられない言葉だけが宙に浮かんでは消えていくようだった。

「美津子。」

一階のロビーに先に出ようとした美津子を、信は呼び止めた。
誰もいない館内。自分の声だけがやけにうるさく響いていた。

「全部、聞いてたんだろ・・・・?」

独り言のように、いったつもりだった。責める気はなくて、でも巧く言葉にできなくて、やっと出した台詞はなぜかキツイ言い方になっていた。

美津子は振り返るとやっぱり泣きそうになって、下唇を噛みながら悔しそうに口を開いた。

「うん・・・全部」


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