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「そのチョコを食べ終わる頃には」
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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『第2章 その秘密の出来事は』-7

2−2

 鈴掛北中学校の応接室。
 修平は遼と利恵の顔を交互に見比べた。
「あれえ、遼先輩、篠原先生と知り合いだったんすか?」
「あ、ああ。ちょっとね」
「なんか充実した顔つきになっちゃって。警察官の制服がすごく似合ってて頼もしい。仕事も家庭もうまくいってるって顔ね」
「奥さんの亜紀さんとはラブラブなんすよ、俺ら夫婦もちょくちょくお邪魔して一緒に飲むんすよ」
「そうなの」
 照れたような遼の反応を見て、利恵は安心したように微笑んだ。
「秋月くん、仕事、途中で抜け出しても良かったの?」
「いえ、これも立派な仕事ですよ、先生。未来を担う子どもたちの安全と安心を守ることが僕らの使命ですから」
 利恵は感心して何度も頷いた。
「でも今日はこの打ち合わせが済んだら帰宅できることになってます」
「そう、ゆっくりできるのね」
「警察官も一介の公務員ですからね」遼はウィンクしてみせた。
 利恵は隣で話を聞きながらカップを傾けていた修平に目を向け、唐突に言った。
「実はね、修平先生、この秋月遼くんの童貞を奪ったのは私なのよ」
 ぶーっ! 修平はコーヒーを噴き出した。
「ちょ、ちょっと先生、こんな所で何てこと!」
 遼は慌てて腰を浮かせ、叫んだ。
 テーブルに身を乗り出して利恵は声を潜めて言った。
「ねえねえ、ここでの打ち合わせが終わったら、シンチョコに行かない? 久しぶりの秋月くんとの再会を味わいたいし、修平先生もそこんところの経緯、訊きたいでしょ?」
 修平はテーブルにこぼしたコーヒーをティッシュでせかせかと拭き取りながら、赤い顔をして大きく頷いた。

 すずかけ三丁目の中心にその『Simpson's Chocolate House』はあった。30年近く前にオープンしてすぐに評判になった。それは当時の初代シェフ、カナダ人のアルバート・シンプソンが腕の良いショコラティエであったこと、その妻シヅ子は大阪出身で愛想が良く、訪れた客の印象に残る個性的なキャラクターであったこと、それに何より当時日本では珍しかった「チョコレートハウス」であったことが大きな要因だった。若い女性だけでなく子供や大人の男女、年寄りのニーズに応える品揃えも奏功して多くのリピーターを獲得し、アルバートの息子、二代目のケネス・シンプソンは店舗を拡張して、現在は喫茶スペースやイベントホールを備えた、見た目もカントリー風の立派なスイーツ店に成長した。常連客がいつからか呼び始めた『シンチョコ』という愛称が今では通称になっている。

「へえ!」修平は大声を出した。「遼先輩の高一の時の初体験の相手だったんすか」
 シンチョコの喫茶スペース。モンドリアンの画の掛かった壁際のテーブルに修平と遼、向かい合って利恵が座っていた。
「もう初々しい秋月くんにきゅんきゅんだったのよ」
 遼は低い声で脅すように言った。「言いふらすなよ、修平」
「亜紀さんは知ってるんすか?」
「わざわざ話すか、こんな恥ずかしい過去」
「なんで恥ずかしいのよ。甘酸っぱい青春の思い出でしょ?」
「先生は当事者なんですよ? なんですか、その他人事みたいな爽やかな言い方」
「私と秋月くんがそんなことになった経緯を話してあげるわね、修平先生」
「ぜ、是非っ!」修平は色めき立った。
 白い湯気を立てているコーヒーを一口飲んで、利恵はゆっくりと口を開いた。
「私、あの実習の直前につき合ってた彼が大怪我しちゃったの。もう最悪の心理状態で臨んだ実習だったわ」
「大怪我?」
 利恵は一つ頷いた。
「そう。彼も大学には一浪して入ったから、私と同い年。大学で柔道やってたんだけど、練習中に投げ技をくらって脊柱を傷めちゃって、下半身不随に」
「ええっ! まじっすか?」
「今のダンナの剛」
「当時の彼って剛さんっていう人だったんですか……」
「あれ? 秋月くんは知ってたんじゃないの? 私のダンナの剛のこと」
「剛……さん?」
「そうよ、篠原剛」
「あ! 横浜の……」遼は少し考えて、すぐに思い立った。「剛にいちゃん? もしかして僕のいとこの?」
「そう」利恵はにっこり微笑んだ。


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