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オーディン
【ファンタジー その他小説】

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オーディン第四話『大きな木の下で・前編』-1

「渡してもらおうか、その“腕輪”」
男のボソボソっとした声が頭に響た。
草原の中、長髪の男が腕をこちらにむけ、挑発的な態度で立っている。
「あの黒い髪の、トールじゃないよね、ファウスト」
「ああ、違う、しかも、いきなり俺の“腕輪”をよこせだとよ…、馬鹿じゃないのか、あいつ」
大きな木の下、狼とウエスタン風の男がくつろいで座っている。そしてそこから小さく見える男を眺めていた。
「どうするの」
「どうするって…、ルシファーから貰った数少ない報酬だ、やれるか…、よっ」
パンッ、乾いた音がこだました。フレキが隣りを見ると、ファウストの握っている銃が長髪の男に向けられていた。
「あいつ…、びびったかな」
ファウストの顔がにやつく。そして、すかさずフレキが声をあげた。
「ファウスト、剣抜いて!!」
「ん、何だ」
「いいから早く」
カチャ、キィン…、ファウストが剣を抜いたと同時に、何かがそれに当たった。
「痛ってぇ…、何なんだ今の」
「…撃ってきた、あいつが」
「おいおい冗談だろ、この距離じゃライフルか“神武”しか…」
「“神武”だね、間違いない」
困惑しているファウストに、フレキがあっさりと答えた。
「たく、ファウストが挑発なんてするから…」
「神武使いが相手かぁ、同業者じゃないみたいだし、一体何もんだ」
しばらくすると長髪の男は歩みを止め、そしてこちらへ剣を向けた。と同時に
ドプン、ドプン、アラストールたちが地面から這いずり上がってきた。仮面をつけたその首が、不気味にガタガタ震えている。
「召喚もできるのか…」
「大丈夫だよ、ファウスト」
フレキが声を弾ませて言った。
「なんだ、何そんな嬉しそうにしてんだ」
「“グラシャラボラスの戦い”の再現かな、なんて」
「…そりゃどうも」
フレキを横目で見ながらファウストは頬をかいた。
飛び跳ねながら向かって来るアラストールたち。ファウストは座ったままその風景を眺めていた。
「ねぇ、ファウスト、思ったんだけど」
「ん、どうした」
「…今のうちに撃てばいいんじゃないかな」
「……」
パパパパパンッ、乾いた音が連発して、ファウストがフレキにこう言った。
「どうかしたかな」
「う、ううん、なんでもない」
間をおいて、フレキが誰にも聞こえないような声でつぶやいた。
「ファウスト、格好いい…」
ファウストの撃ち放つ弾は外れることなくアラストールの頭を撃ち抜いていった。
「さてと、アラストールは片付いた、あとはあの生意気な奴だけだな」
小さく見える男に銃を向けるファウスト。
「“腕輪”を渡せ」
男の声が再び頭に響く。長髪の男は剣を構えると、もの凄い勢いで飛んで来た。
「ファウスト、大丈夫、だよね」
「……」
フレキの問いにファウストは答えなかった。無言で立ち上がり、剣を構えるファウストを見て、フレキは一言。
「…やっぱ格好いい」

勢いよく飛んでくる男を見て、ファウストは生唾を飲んだ。
「“腕輪”は渡せない…」
剣を握る手に力がはいる、剣先は男を狙い、ファウストの目は次第に赤く光りはじめていた。
「腕輪…渡せっ」


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