車両の対決、星司ＶＳジョン-5
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星司の跳び蹴りを前にジョンは呆気に取られた。まさか、自分と互角に渡り合ったほどの男が、こんな単純な奇襲をするとは思わなかったのだ。上体の浮いた者などその攻撃をかわせば隙だらけだ。
ジョンは身体を捻り、星司の着地の瞬間のタイミングを計った。しかし、そのジョンの思惑は外れた。顔の横を擦り抜けるはずの星司の足が突然ピタリと止まったのだ。驚きで目を開いたジョンの顔面を目掛けて、星司の膝が打ち込まれた。
「グォッ！」
星司が吊革を掴んで身体を急停止させた奇襲は、一瞬決まったかに見えたが、ジョンの咄嗟の両腕ブロックと身体を後方に跳び避けたことで、星司の渾身の勢いは殺された。
ドンッ！！！
ジョンの上体が背中から乗車扉にぶつかり、面の衝撃では割れ難いはずの強化ガラスが砕けたが、派手な割にはダメージを与えていなかった。それを見越していた星司は着地の勢いを利用して、扉に背を預けるジョンのがら空きの側頭部目掛けてフックを打ち込んだ。
バシッ！
その打撃も顔面を被う腕のブロックの横払いで弾かれ、続けた正面からの膝蹴りも、直後に出された足でさばかれた。その後に続く星司の連続攻撃を避け、かわし、弾きながら徐々にジョンも攻撃を加え始めていた。
カラン！カラン！
星司の跳び蹴りの勢いを受け止めた吊革が横の吊革にぶつかり乾いた音を立てていた。その音が収まりきらないほどの極短い時間の中で、これらの攻防が繰り広げられていた。
また、その吊革同士がぶつかる音が合図のように、フットワークの軽い啓太が躍り出てきた。
その正面で迎え打つ田川は、星司の攻防に気を取られていて対応が一瞬遅れた。
「ちっ！」
舌打ちした雄一が、足にダメージの残る田川を庇うように割って入り、咄嗟にダメージの少ない左手で掌底を打ち込んだ。そのカウンター気味の打撃は、啓太の胸に当たったが、同時に啓太の左拳でその腕を払われた。
「がっ！」「ぐっ！」
啓太が後ろにのけ反り、左腕を弾かれた雄一の胴が開かれた。
「どけっ！」
浅見が啓太を押し退け、無防備な雄一に襲いかかった。
「させるかよ」
田川が軸足の痛みに耐えながら、浅見の胸に前蹴りを放った。
「ぐおっ…」
呻く浅見。しかし、雄一をかわしながらの狭い車内、それでいて軸足の痛みが重なり、中途半端な体勢の攻撃では浅見の勢いを止めることはできなかった。
３人はもつれるように床に転がった。
「げほっ…」「ぐうっ…」
浅見の体重をモロに受け止めた雄一が息を吐き、浅見に飛ばされた田川は、座席の端の鉄パイプで後頭部を強打した。
田川の前蹴りを受けた浅見は、肋骨を痛めはしたが、昏倒させられる程のダメージではなかった。
「いちちち、このガキが」
ギブスの腕で胸を抑えながら立ち上がった浅見が、雄一の腹を足蹴にした。
「ぐぼっ…」
「くっ…手間かけさせやがって」
雄一を蹴った衝撃が浅見の痛めた肋骨に響いた。その痛みを怒りに替えた浅見が雄一の顔を踏みつけた。
（アニキ…ごめん…）
満身創痍の雄一が反撃のために足掻こうとしたが、身体が思うように動かなかった。そんな雄一の耳にその声が聞こえた。
「雄一を離しなさい」
それに驚いた雄一の目が開かれた。
「えっ？」
自分を呼び捨てにする女は１人しか居ない。