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Overtake goodbye
【姉弟相姦 官能小説】

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A-3

 (そんな事より、先ずは仕事だな。)
 自分のデスクに着くと、パソコンを立ち上げた。営業に出掛ける前、休みの間に届いたメールをチェックし、新規の注文や仕様の変更等、急を要する案件の有無によって、適切な段取りを付ける為だ。
 (うん?なんだ。)
 注文メールの羅列に混じって、社内メールが来ている。しかも、送られたのは、ほんの数分前だ。
 三年前、従業員への通達は回覧板だったものを、省力化として社内メールに刷新されたのだが、メールを送る際、慣例では、件名欄に具体的題名を付けるよう取り決められた筈だが、このメールには唯、単に「おはようございます!」と、しか記されてなかった。
 (何か、妙だな……。)
 先日、得意先で聞かされた話が、頭の中を掠める。
 それはこうだ。送り主不明なメールを躊躇せずに開けた結果、ウイルスの侵入を招き、社内サーバーが破壊されてシステム・ダウンに陥った上、数日間もの開店休業状態と多額の復旧費用をともなう被害に遇ったと、担当者がこぼしていた。
 (どうしたものかな……。)
 大した専門知識もない俺が、下手を打ったばかりにシステム・ダウンに陥ってはマズい。とは言え、本物の社内メール、仮に重要案件だとしたら、何らかのペナルティが科される可能性も有る。
 (緊急なら、再度、送って来る筈だし……。)
 ここは無駄なリスクを避けて、社内メールを削除するのが得策だろう。
 (まあ、責めるんなら、間抜けな件名を書き込んだ己を責めてくれよ。)
 社内メールを消し、多少の後ろめたさを持ちながらも、俺は取り急ぎ注文メールをチェックする事に専念した。





 「先輩、そろそろお昼にしませんか?」
 三件目の営業を終えた直後、吉川が口にした言葉に、俺は少し驚いていた。
 「ちょっと早過ぎやしないか?」
 腕時計に目をやると、未だ、十一時を少々過ぎたばかり。しかし、吉川は俺の問いかけに僅かばかり首を横に振って、自信ありげに答える。
 「いえ。この時間帯が正解です。午後一から行く予定の〇〇社。あそこの担当、やたらと時間に厳しい方となってましたので。」
 「そうだったな。ところで、宛ては有るのか?」
 「はい。出る前にチェックしたんですが、この先に美味そうな定食屋が有るんですよ。」
 「そうか。だったら任せるよ。」
 「はい!」
 最近、吉川の仕事ぶりは目を見張るものがある。見積りや納品、アフターケアという営業のイロハは当然だが、営業部が長期を費やしてデータ化した各社の傾向と対処書を、以前は読み込んでも実践に伴わなかったのが、最近は、こなせるまでになってきたのだ。
 (まあ、元は俺の後任だったんだから、当然っちゃ当然だな。)

 三年半前のあの日──。異動を命ぜられた俺の後任に就く筈が、悲劇的な出来事によって異動は取り消しとなり、その後、二人とも元の鞘に収まって今に至っている。
 吉川自身、この一件について何も語ろうとしないが、内心、一度は決まった後任を断念させられた事に忸怩たる思いだった筈で、だからこそ、人目を忍んで研鑽を重ねたのだろう。
 (そろそろ、このコンビも解消する時期かも知れないな。)
 最初は、与えられた業務をこなすだけで必死だった者が、そこに成果が見え始めると仕事に面白味を感じ出し、もっと覚えたいという思いから、仕事に夢中になる時期が訪れる。
 そんな時期を見逃す事なく、現状より、少しだけ大きい責任と裁量権を伴う質の高い仕事に就かせる事で、向上心を煽り、人としての成長を促すのは、年長者や上役、強いては企業の使命だと俺は思う。
 「なんです?また一人、ニヤニヤして。」
 「えっ?そ、そうか。」
 「楽しい休日を思い出してかも知れませんが、端から見てると気持ち悪いですよ。」
 「う、うるせえよ!黙って運転してろ。」
 「はい、はい。」
 後輩の成長ぶりに目を細めてしまったのは俺の不覚だが、年配にクソ生意気な口を利く様になった姿は、成長の証とはいえ忌々しく映る。
 「俺の心配なんかする暇が有るなら、自分の心配でもしてろ。」
 やり返してやろうと思わず口を付いた言葉に、俺は内心、後悔した。
 「何なんです?唐突に。僕の何処が心配だと言うんです。」
 「何処じゃなくて長岡の件だよ。彼女が入社してからの半年と言うもの、何ら進展なしのままじゃないか。」
 どうやら俺は、虎の尾を踏んだらしい。吉川の面は強張り、みるみる紅潮してゆくのが見えた。
 「な、何の、何の権限で、そ、そんな事を訊くんですか!?先輩には関係ないでしょう。」
 自身の発言を大いに悔やんだが、こうなったからには仕方がない。

 ──ここまで来たんだ。この機に乗じて、全部、吐き出してやるか。


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