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黎明学園の吟遊詩人
【ファンタジー その他小説】

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パープル・ヘイズ──白石由子とレインの遭遇-2


 気が付いたときには目の前に石畳があった。道の前に倒れていて、本能的に身を起こしたのだが、転移する時に若干高低差があったみたいで、身体中が痛い。仰ぎ見ると、真っ黒なビルの影で星のない夜空が切り取られている。
「ったあ……って、ここはどこだ?」
 カッカッカと、革靴の音がビルに木霊しながら近づいてきた。
「お嬢ちゃん、どしたの? 転んだ? 怪我してない?」
 見ると、灰色の長髪に黒い細身の皮のコートに身を包んだ男が灰色の瞳を近づけている。そこそこに美形。
「いい男じゃない」
「最初にそれかよ。ってなら大丈夫だな。でも、その格好、ひょっとして…ビリー・シアーズ・ショーに来たの? なら、入口は今隠れているから、ついてきて」
 見知らぬ男は由子の手を取り、素早く背中を抱き上げる。
 うん。これは詩音の言っていた「幸運の鍵」ってやつかも知れない。なら、素直に流れに任そう。
「そうなの。楽しみにしていたのよ。連れて行ってくれます?」由子はいかにもな無力であどけない少女を装う。『ぶりっこ』ならお手のものだ。
「お安い御用だ。何しろ非合法だから、管理が厳重でね」
 こんな時「影歩き」は便利だ。よほどあり得ない存在の単語でない限り、聞き取れるし普通に話せる。理由はわからないけど、照井も詩音も気にしたことはないらしい。最も沓水は別で、実際にその地の言葉を話すことが出来るらしいが。
 男の肩を借りて、少し足を引きずりながら道を歩く。昔行った事のあるロンドンによく似ている街並みだ。ほんの少し歩いたところで道を曲がり、路地に入り込む。そこには小さな瓦斯灯が灯り、古ぼけた吊るし看板があり、体格のいい髭面の男が腕を組んでいた。分厚いドアには滅茶苦茶に板が打ち付けられている。どう見ても閉鎖状態だ。
「ガリー、客だ。開けてくれ」
「チケットは?」
 肩を貸してくれた男が由子を振り返る。その立ち振る舞いも含めて、ひたすらモノトーンな男だと改めて思う。イケメンだけど目立たない男というものに出会ったのは初めてだ。


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