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黎明学園の吟遊詩人
【ファンタジー その他小説】

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パープル・ヘイズ──白石由子とレインの遭遇-1


 黎明学園は武蔵野の比較的緑に恵まれた環境にある。玉川上水沿いの道はこんもりとした森と繁みに囲まれていた。
 また、廃屋も多い。ことに吉祥寺駅への近道に通る廃倉庫は「お化け会館」との悪名を持ち、幾多の都市伝説にまみれているが、興味本位に訪れた者は例外なく怪我をする。元がガラス問屋だったから、至る所にガラスの破片が散乱しているのだ。
 由子は帰宅のために一人で「お化け会館」の前を歩いていた。放課後になってひょんな事からインスピレーションが浮かび、音楽室で夢中になってピアノを操って作曲をし、気が付いたら日が傾いていた。
(あ〜あ、閃く時って突然なんだよねえ。作曲家や作家ってみんなこうなのかしら。お母ちゃんも突然夜中に書き出していたものなあ)
 ちなみに彼女はフルネームを白石由子といい、詩人の母親と映画監督の父親を持つ生粋のアーティスト家系だ。
 何か変だ、と思う。背筋に冷たい物を感じる。それは閃光。
 由子は突然目眩を感じた。立ちくらみや貧血なんかじゃない、強い目の痛みを伴う墜落感。
 視界が断ち切られ、強力な稲妻に包まれる。その色は毒々しい紫。
(よりによって!こんな時に!)
 自分が「カード」の一人だという事は知っている。しかし、照井や詩音みたいに自由に『影』は歩けない。それは突然やってくる発作──「パープル・ヘイズ」の発動だ。
 意図しないときに意図しない場所へ強制的に『影』を移動するそれは、詩音に言わせると実は自分の願望に繋がる「幸運の鍵」だという。『影』を歩くことに於いて最大の功者である詩音が言うのだから、それは本当のことかも知れない。事実、「過去に似た異世界」で手に入れた楽器もあるぐらいだ。
 だからといって、この稲妻の交錯する無重力状態「パープル・ヘイズ」に慣れることはない。喉から耐えられない叫びが漏れる。助けて! だれか! 詩音、照井、沓水、誰か私を助けて!
 それは喉を通らない無力な苦痛となって、由子の意識を容赦なく奪った。


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