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疼きに喰い込む赤い縄
【その他 官能小説】

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究極の-2

 「心のどこかで諦めきれていなかったんだな。でも君の同棲を知ってハジけた。ヤケだよ。同じく被害者だとは言え、僕を裏切った女たちへの復讐心もあったかもしれない。」
 「そんな…」
 私が、他でもないこの私が、純朴で誠実なこの人を狂わせたというの?
 「きっかけ、だよ、君は。原因じゃない。理由じゃないんだ。その点に関しては気にするな。」
 「え、でも…」
 「まあとにかくだ。寝取り屋の一味に加わった僕は、青野アスタさんの特訓を受けた。」
 「それって…」
 「そう。最初はアスタさんが相手をしてくれた。女の悦ばせ方は女に習うのが一番でしょ?って。で、ようやく彼女を自在にヨがらせられるところまで上達した。」
 「頑張ったんですね。」
 「うん!俺、頑張った。」
 無邪気で純朴な人だから、ヘタと言われるのに傷ついて悔しくて、頑張ったんだなあ。
 それに、音楽とセックスは似てると聞いたことがある。サックス奏者として、そして指揮者として抜群の才能を発揮して全国大会へ導いてくれた先輩なら、やり方さえ学べば女を悦ばせる達人になったとしても不思議はない。
 「それからは何人もの女の子を相手に修行した。」
 「その人たちはどうやって連れてくるんですか?」
 「分からない。指定された部屋で待ってると、練習台を名乗る女の子が来るんだ。」
 「バイト?」
 「どうだろうね。そんな感じはしなかったよ。普通に女の子とエッチしてる感覚しかなかった。でも、なんか不思議なんだよね。」
 先輩はポリポリ、っと頭を掻いている。
 「不思議?」
 「どうもうまくいかないなあ、って悩んでると、いつの間にか青野さんがそばに立ってて指導してくれるんだ。で、気が付くと居なくなってる。終わるとまた現れて総括して消える。ドアには内側から鍵が掛かってるのにだよ?そして、ついさっきまで喘ぎ声をあげて失神していた女の子が急にピョコっと立ち上がって、お疲れさまー、みたいに軽い調子で帰っていくんだ。そのうち慣れちゃったけどね。」
 「な、慣れちゃうんですか。」
 「うん。」
 「…まるで、他人に憑依して操る能力を持ってるみたいですね、その青野アスタさんて。」
 「ああ、なるほどね!それなら説明がつく。」
 「説明はつくけど信じられませんよ。」
 「だよなあ。たしかそんな内容のSF官能小説ならあったけど。その名もズバリ、憑…」
 「ああ、お風呂上りだけ元気になってバリバリ書くヘンな作家ですよね?」
 「うん、たしかそんな人だったっけね。」
 コーヒーを一口飲んでから、彼は話を続けた。
 「まあ、そんなこんなで実戦投入された俺は、すぐにエースと呼ばれるようになってかなり稼いだ。そのカネでロータス・エリーゼを買って、ヤマを駆け巡った。楽しかったよ、走るのは。でも、やっぱりスッキリしないんだ。自分のやってることにずっと疑問を持ちながらだからね。」
 「納得のいかない仕事を続けていた?」
 「そう。だからしばらくしたらEDになっちゃった。」
 「いきなり廃業ですか。」
 「そうなりかけた。だから、良さそうな病院をネットで探して泌尿器科医院に行ったんだ。」
 「EDって、泌尿器科の担当なんですか?」
 「そうだよ。俺も知らなかったんだけどね。尿の問題だけじゃなく、関連する部分の医療全般さ。」
 「なるほど。」
 「で、その病院がね、今三代目なんだけど、代表医師がまだ29歳のメチャクチャ綺麗な女医さんなんだよ。」
 なんだか先輩が興奮し始めた。
 「若い男の人のED治療には実績がありますので、任せて下さい、って言われたんだけど、ホントにすぐに治っちゃった。」
 「よかったですね。」
 いやまて。この場合、そのままEDだった方が被害者が少なくて済んだかも。
 「うん。でね、先生、卒業試験をして下さい、って言ったらね、」
 「言ったんですか、それ…。」
 「三つ子の授乳中の人妻ですけどいいですか、って言われたから、得意分野です、って答えたら、奥から哺乳瓶を何本も抱えた汗だくの男が凄く怖い目で出てきたんだよ。ワケ分かんない模様のシャツ着てたから、よけいに不気味だったなあ。」
 「旦那さん?」
 「たぶんね。それにしては若かったけど。」
 「はあ。」
 「というわけで、寝取り屋魂に火が点いたんだけど、お世話になった人だからやめておいた。」
 「それ、実行してたらひとでなしですよ。」
 「まあね。そんなとき、彼に出会った。」
 「彼?」
 私はある予感から緊張を感じ、無意識にコーヒーを一口飲んだ。それは少し冷めていたが、十分以上に美味しかった。
 「その日、俺はいつものように早朝の観光道路をエリーゼで駆け回ってた。そしたら、森林植物園の駐車場から一台の赤い車が飛び出してきて後ろに貼り付いてきたんだ。ミラー越しにでもすぐに分かったよ、それが伝説の街道レーサー、赤サソリだと。」
 「赤サソリ!?」
 「ちなみに俺はブラウ・ニュンフェと呼ばれてる。ドイツ語で青い妖精ね。」
 ダサ…。いや、それは置いといて。
 「その赤サ…」
 「さすがに速かったねえ。一瞬のスキにインを取られてサイド・バイ・サイド。コーナー出口直前の一番重い所でタックインして一気に向きを変え、フル加速。でも、こっちはミッドシップだからコーナリング中にむやみに踏めないだろ?」
 「え?ええ。」
 何の話?
 「まあ、そこから二つ先の右で鼻先突っ込んでやったけどね。軽いといってもFFだから、エリーゼと同じラインでは飛び込めない。頭が重い分、どうしても回頭が遅れる。」
 「ああ…うん、そうよね。知らないけど。」
 似てる。車の話になると魂がプカプカ浮いてしまうところが。
 「で、その赤…」
 「引き分け。氷室前駐車場ゲート同着。グローブ脱ぎながら降りてきたのが…」
 「幸雄さん、なのね。」
 「そう。」


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