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僕は14角形
【ショタ 官能小説】

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僕は14角形-49


38

「……いまさらですが、何もお舘様がおでかけになるというのは…呼びつけるだけでよろしかったのではありませんか」

 大島家の純和風の家屋の廊下は広く、そして長々と続いた。檜で組まれた屋敷の中は外に比べて嘘のように気温が低い。伊集院が押す車いすがその廊下を音もなく滑って行く。

「駒というのかな。将棋で王将と王将の駒だけでは勝負にならん。お前だってその駒のひとつじゃ。すでに勝負は始まっているのだ」

 やがて広い居間に、腰を上げて立つ大島家の当主が迎え入れる。伊集院の手を借りて、草冠の主が広い和机の座布団に腰掛けるまで、随分と手間がかかった。
 茶を盆を持った和装の若い女性がしずしずと入ってきて、見事な立ち振る舞いで二人の老人の前に茶を置いた。その髪の毛の色に伊集院は少なからず驚く。それは一点の曇りもない緋色に染め上げられていた。

「久しいの、大島……柊」

 向かいに座る「柊」と呼ばれた老人は草冠とは対照的にでっぷりと肥え、顎が二重にも三重にもなっている。伏せた眼は小さいが、その眼光は鋭い。

「わざわざ出向いてくるとは恐れ入ったよ……草冠。いや、「楡」と呼ぼうか」

「お互い秘められた名前だ。しかし、約束を果たしたな。そこに立っているのがいちごの先輩にして友人の姫乃さんだな」

 姫乃は静かに答えずに頷くが、草冠にはその礼儀をしっかりと確かめた。

「さて、したくもない話をしなくてはな。伊集院、頼むぞ」

 伊集院は片手に持ったiPad2を静かに卓の上に乗せ、大島家当主の見えるようにパッドを巻いて立ち上げた。そこには漢字と番号、その下に大きな番号が映し出される。

「これはある少年を襲った賊が使った車の番号です。その番号はレンタカーの会社の持ち物でした。その時間の借り主は無いことになっていましたが、その会社も口の軽いアルバイトを気軽に使っておりましたので。その支店の店長はどうにも首の上がらない上司が本社におりました。その先を辿ることは簡単でございました」

 伊集院はiPad2の上を軽くフィンガージェスチャーして次の画面を出す。それは複雑な相関図形だった。
「で、ありますから、この線を辿って行きますと、ある個人とそれを率いる集団が目に見えます。命令・画策をするのと実行班を全く別々に同期させて完璧を狙ったのでしょうが、そのために連絡が密になります。私の懇意にしているクラッカーがおりまして、趣味で巨大なサーバを管理してまして、まあ、私の目的に適うプログラムを走らせて頂きました。いまどきの携帯電話はGPSが標準ですから。すると、三つの団体が浮かび上がります」

 伊集院が画面を二つの指で拡大する。

「後は簡単です。この三つの団体の表だったもの……まるで裏のものと、指揮系統、圧力をかけられるだけの力のある…まあ、資金源だったりフィクサーみたいなもので共通する一点を探せばいいだけの事でして。普通はここでもう一つフィルタをかけるべきなんでしょうが、私の分析では」

 伊集院が静かにiPad2を上から下に撫でた。

「よっぽどこの人物が必死になるだけのものだったようです」

 そこには、「大島巌」という文字が浮かんでいた。
 静かな間が広い部屋を満たした。その静寂にひとつ、女性の喉がごくりと小さく響く。


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