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僕は14角形
【ショタ 官能小説】

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僕は14角形-37


27

 漆黒の机の前に座った老人は薫り高い紅茶を口にした。
 ダージリンでも、ウヴァでもないその紅茶はキームンという。遠い昔、中国で起きた「阿片戦争」の元凶とも言うべき呪われた中国茶だった。
 向かいに立った伊集院はiPad2を片手に持って、老人の前でそれを起動した。

「で、その後の進展はなにかあるのか」

 伊集院はほのかに薄い笑いを浮かべた。

「私とて、遊んでいる訳ではございませんので」伊集院はiPad2の盤面に指を滑らせた。

「まず最初に、『天羽詩音』は私生児で、「天羽」の血は受けておりません。」

 老人は前屈みになって節くれ立った指を組んだ。

「母親の連れ子か…それで?」

「詩音の母親の戸籍も出生の記録も公的機関には存在しません。そもそも天羽とは婚姻してもおりません。しかし何故か…捏造されてはおるようですが」

「ふむ」

「詩音の母親の出生の秘密はほとんど不明です。ただ、父親をなんとか特定は出来ましたが、法的には全く根拠がないばかりか、まあほとんど伝説ですな」

「続けよ」

「詩音の祖父についての文献は例外なく『美麗な』とか『博覧強記』、あるいは『麗しい』という表現が使われておりまして、これにはほとんど例外がありません。詩音の母親の戸籍上の捏造された名前は「天羽弓子」ですが、旧姓の記載はなく、白紙状態です。交友関係は多かったようですが、どれもこれも……なんといいますか、怪しげなものばかりでして。ま、オカルト関係と言ってもよろしいかと」

「ふむ」老人は紅茶を飲み干した。

「そんなものはこの草冠とて似たようなものじゃ。大島も…ま、極めつけは綿星じゃがな」老人は昔を思い出すようにその白い瞳を天井に向ける。

「まさか、その力を具現する選ばれた名前の人間が現れるとは思わなかったが」
「しかし、本当に天羽詩音の母親の旧姓の探索には苦労しました。予定より大分資金を投入する結果になりましたが」

「よい。ぐずぐずしないでその天羽詩音の母親の名を明かせ」

 伊集院は珍しく脂汗を流し、iPad2の最後のページを開いた。

「天羽詩音の母親の名前は、『鳳仙花弓子』ということになります」

 10分ほども静寂が流れただろうか。ようやく、老人が口を開いた。

「伊集院、貴様、気でも狂ったか」

「自分でもそう思っております」伊集院は自虐的に微笑んだ。

「しかし、これだけ時間と金をかけ、辿り着いた答えです。他に選択肢はございません」
 老人はしばらく秘かな笑い声を漏らし続けた。

「鳳仙花、か。長生きはしてみるものじゃな」

「かつてはその名を呼ぶだけでも許されなかったと伝えられております」

「知っておる」

 老人は堪えきれないような笑いを浮かべた。

「でも、今なら言える。いつ死んでもかまわん。『鳳仙花』と何度でも呼べる」

 老人はしかし、両目を押さえて俯いた。

「しかし、今、『鳳仙花』に何の目的があるのか、さっぱりわからん」

「私も同感です」伊集院が頷く。

「それと、関係があるかないか解りませんが天羽詩音の医療関係のデータを入手することが出来たのですが……ちょっとこれは」

「なにか持病でもあるのか」

「そういうのではなくて、なんと申しますか、長期間にわたってそれぞれ関連はございませんが、おびただしい数の事故にあっていますね。記録では「血圧低下」とか「心肺機能の衰弱」「転落による脱臼」とか、時期場所も時間もバラバラなのですが、総合して推理分析しますと、これは何者か、いや、私の推察では複数のグループによる……陰湿で凶悪な『虐待』です」

「そんなに酷いものか」老人の眼が伊集院の方角を睨む。

「普通なら精神がどうにかなっているでしょう。現在も精神科から主にトランキライザーと睡眠導入剤を処方されているようです……実は担当医に詳細を聞こうとしたのですが、なんとも口の硬い男で。謝礼を受け取ると、そのままゴミ箱に捨てました」

「ん。出来る男のようじゃな」

「ただ、ひと言だけ……『天羽詩音を守ってやってくれ』とだけ言い捨てました」

 窓から差し込んだ光が鈍く反射する樫の床に、二人はただ眼を落とすしかなかった。


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