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僕は14角形
【ショタ 官能小説】

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僕は14角形-3


 外は見事に春めいて、かなりお年を召している桜がその図体からは少しばかり寂しい花を咲かせていた。百年を超える伝統を持つ学校に相応しく、足下は石畳で、ちょっとヨーロッパ・ロマン街道風味。ビルの影になった平屋建てのこちらはやや安っぽい作りの食堂がある。

 僕は当然弁当など作る気力も時間も買っている時間も無かったので、他に選択肢はないから素直に薄い硝子の入った木製のドアを押して入った。そこはちょっとしたスクエアな空間になっていて、突き当たりを左に曲がると食堂カウンター、右へ曲がればトイレと、大雑把な張り紙があった。床はまあ何十年か前にはワックスをかけたことがあるようなどす黒い木の板が軋み、壁にはいまどき滅多にお目にかかれない柱時計が掛かっている。そんなレトロな様子とは裏腹にぴかぴかの食券販売機が居座っていた。

 食券販売機とは、限りなく無機的なインターフェイスだが、そのボタンの位置、商品札の汚れ具合や退色、ボタンの汚れ具合でその利用頻度を読むことが出来る。加えて、厨房から漂う香りや金属音も状況証拠になる。総合的な状況判断ひとつで食後の気分もしくはその後の体調の趨勢までを決めるのだから、あだや疎かには出来ないのだ。疎かにしてはいけないがその時間、疎かじゃないか。

 僕がふうううむと考え込んでいると、左脇から黒いセーターに包まれた細い腕がするりと通り抜けた。長い。しかも速い。指に挟まれた何枚かの硬貨が瞬く間に食券販売機に飲み込まれ、あろうことか返す刀のようにボタンを叩き、舞を踊るように発券機の隙間から一枚の食券を抜き取った。流れるような動きは蛇のように無駄がない。ちょっと鉱物的に固まっている僕を見下ろしたその極めて長身短髪の女子は、細長い手からは想像できない力で僕の肩を掴むと、ぐいっと販売機に押しつけた。

「……じゃま」

 足音のしない不可思議な浮遊感を伴う歩き方で長身短髪女子は黒いパンツスーツを翻して食堂へ向かってゆく。速い。とにかく速い。自分の状態とか礼儀とか感情とかTPOが全部蒸発する超速度だ。クロック数4ギガバイトは下らないであろうと考えた僕はメモリの規格とかキャッシュ容量とかチップセットや挙げ句はソリッドステートドライブは何処まで速くできるか予測しながら熱量の心配までしてしまった。

 しかし、迂闊。短髪高速女子が選択したのは「月見そば」だった。

 状況から考えれば蕎麦は間違いなくゆで蕎麦だし、玉子の上からゆるゆると汁をかけ回すとは思えない。間違いなく最後に乗せるだけだ。心の底でほくそ笑みながら、僕は「天ぷらうどん」のボタンを押し込んだ。天ぷらは間違いなく後から乗せる。それ以外には考えられないのだ。無礼で短絡な輩にはそれなりの運命が待っているのだ呪われろ電信柱。 僕は心の中でほくそ笑んでしっかりとボタンを押した。


 うかつにも北極海のノイズで攻撃艦の急襲を受けてしまったが、補給物資満載で外のベンチで寝転がっていると、春の微風が石畳から生存を主張する草を揺らして気持ちが良い。オリエンテーションの教師は「大きな学校ではない」とは言ったものの、生徒数から考えると十分すぎるほど広大だ。あちこちに植樹されたと思われる楡の大樹や、並んだ樅の木が揺れ、郊外とはいえ随分贅沢な緑に囲まれている。

 建物もとんでもなく古い煉瓦造りの用途不明なものがあちらこちたに点在する。全て蔦が絡まり天空のラピュタ状態だ。夏になったらさぞかし太った毛虫がわんさかとこんにちわするだろう。
 夕方になったら、まだ見ていない「寮」に行って、人間らしい巣を作らなくてはならない。あー、もう荷物は届いたかな? めんどくさ。
 しかし法則さえ守れば。「納めるべき物を納めるべき所に納め」「……余計な物を片付ける」これだけ守ればいいのだ。と、考えたところで、アクティブソナーに反応。高速推進音にて全力逆進。


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