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悦子
【SM 官能小説】

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悦子-5

 「それで先生、早速で恐縮なんですが、エルミタというのは何のことなんでしょうか」
 「ああ、それは地名です」
 「何処の地名なんですか?」
 「フィリピンのマニラ湾に近い所ですね」
 「フィリピンですか」
 「ええ、何処だと思いました?」
 「あっ、私は人の名前だと思ってました」
 「ああ、そんなことを書いていましたね、手紙に。そう言えばそういう風に取ることも出来るんだなって感心して読ませて貰いましたけど」
 「それで、エルミタというのはどういう所なんでしょうか? マニラ湾に近いというから景色の良い所なんでしょうね」
 「そう・・・、まあマニラ湾に近いけれども全くの都会ですよ」
 「日本で言えばお台場のような所ですか?」

 お台場というのは栄一は行ったことが無いけれどもディスコだのパブだの若者向けの施設が急に増えた所だと聞いている。してみるとそれ程違わないのかも知れない。

 「そうですね。まあそんな感じかも知れません」
 「なるほど。それでは黒い乳房というのは何の象徴なのでしょうか」
 何かの象徴と決めつけている。
 「貴方はどう思いますか?」
 「私は黒で闇の世界を象徴されているのだと思いました。乳房というのは勿論母性の象徴だと思いました」
 「なるほど」
 「で、どうなんでしょう?」
 「いや、そんな風に感じ取られているのなら、それで宜しいんではないでしょうか。作品というのは発表すればもう作者の手を離れた存在になってしまいますから、それを作者だからと言ってこうだああだと読者の鑑賞を制限したり導いたりというのは出来ないことなんだと思いますよ」
 「なるほど、そうですね。いいことをお聞かせ頂きました。確かにそうですね」
 「だから貴方には貴方の解釈があっていいんだと思います」
 「それを聞かせて頂いて意を強くしました」

 昔作った短歌の内容などを説明したくは無いし、説明すると途端につまらない物に思われそうな気がして栄一は先手を打ったのであった。別に持ち上げて貰う必要もないが目の前であからさまに失望されてしまうのも面白くない。
 悦子は発行されたばかりの最新号を持参していて、その中の5首についてもいろいろと質問を用意してあったようだが、結局栄一の逃げが効いたのか、彼女自身の解釈と感想を述べて帰っていった。栄一は彼女の感想をしかつめらしい顔をして聞いていた。『大輪のハイビスカスを髪に挿し 微笑む君は黒いモナリザ』という短歌がお気に入りだったようで、悦子は闇の世界と母性とが栄一の短歌を解く鍵なのだと思うと結論づけた。
 解く鍵が必要な程の物ではないと言いたかったが、そんな風に思っている人には思わせておけば良いのだから、まるで他人の作品についての批評を聞くように「ふんふん、なるほど」と相づちを打っておいた。先生は心の中に大きな闇を抱えていらっしゃるからその代償として母性を求めておられるんだと思いますという悦子の説を聞いて、なるほど、だから俺は女好きなんだと思った。
 心の中に大きな闇を抱えているとは思わないが母性と言うか、何と言うか、ともかく常に女を求めているのは確かだからこの女の言うことはあながち外れてはいないのかも知れない。現にこの狭い空間に人形のような顔をした若い女性と二人きりでいることに栄一の心はときめいているのである。レイプでもしてやりたいなどと考えるのは、やはり闇を心に抱えているせいなのかも知れない。悦子は仕事で東京に来たと言っていたから高校生では無い。ホテルに泊まっているのか親戚の家に宿を取っているのかは聞かなかった。今度は電話してから伺いますと言って帰ったから又来るつもりなのだろう。

 暫くして又そろそろ雑誌に寄稿する短歌を選ばなくてはならない時期が来た。母性と闇が江田栄一の短歌の特徴なのだそうだから、それに相応しいような歌を選んでやれと思ったり、逆に母性や闇と関係なさそうな奴を選んでやろうかなどといろいろ思い悩んでしまった。要するに栄一は既に悦子に振り回されていると言って良い。


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