コンタクト-1
「え!そうなんですか?」
「ええ。すれ違ってるかもしれませんね。」
「うわあ、絶対そうですよ。」
学生時代の友人から人数合わせで急遽呼ばれた合コン。気乗りはしなかったが、まあこれも付き合いだ。そう思って参加した。
しかし、偶然隣に座った女の子とは妙に気が合い、けっこう楽しい時間になった。
そのきっかけは、夏に行った旅行の話だった。
私と同じ日、同じくらいの時間に、同じ美術館に居たというのだ。
「私、その時はノースリーブのレモン色のシャツとベージュのチュール・スカンツだったんですけど、見かけませんでした?」
「さあ、分かりません。ごめんなさい。」
「いえいえ。ルリカさんは?」
「私はいつもこんな感じです。半袖だったけれど。」
ほとんど飾り気のない清楚な白いブラウスに薄いピンクのニットカーディガン。膝丈の赤いプリーツスカート。
…地味だ。
眉の高さで前髪を切り揃え、先端だけ軽く内巻きになっているサラサラのセミロングヘアは、絶対に一度も染めていないとしか思えないほど真っ黒で艶が滲んでいる。
…清純だ。
声は囁くように小さくて、密着レベルに近寄らないとあまり聞き取れない。
…内気だ。
メイクは薄いピンクのルージュのみ。
地味だなあ、この子。
ここが勝負!っとばかりに背伸びしたファッションでキメキメの女子たちの中にあって、ルリカさんは完全に浮いている。良い意味で。
実際、彼女は男子たちからのチラ見を大量に浴びている。
でも、彼らはルリカさんに声を掛けない。
自分から積極的に攻めるなんて、ガッついてると思われて声を掛けてもらえない、って、たいていの女子はそんなふうに勘違いしている。
逆。
オトコ欲しいですぅ!という空気を出してない女に男はあまり興味を持たないからだ。
口説いても冷たくされるだけ。頑張ってもヤれなそう。時間のムダ。そんなふうに感じて無意識に避ける。それよりもイケそうな女に迫った方が効率がいい!と。
もう一つ。可愛すぎる女の子も声を掛けられない。
自分にはムリ。相手にされなくて悲しい思いをするだけ。どうせ他にイケてるオトコがいるんだろ。時間のムダ。それよりもすぐヤれそうな女に行った方が効率がいい!と。
ルリカさんは、『声を掛けられない女の子』の二つの要件、つまり男に興味なさそう&可愛すぎる、の両方を満たしている。つまり、チラ見はされるが誰も手を出さない、ということになる。
以上、ヤリチンの元カレからの受け売りね。あーあ、あのバカどうしてるんだろう。関係ないか。
…エッチだけは上手かったなあ。
ちょっとムズムズ。
でも、今日のスカートのポケットは底抜けじゃないし、スカンツじゃないから喰い込ませるものが無い。足首近くまである長いスカートを捲り上げたりしたら一瞬で見つかるだろうし。
最初からバレバレじゃ私はその気になれない。バレるかも、見られるかも。そんな状況でこそ、私は熱くなる。私の下腹部も熱くなる。
それはともかく。
幹事である友人に指定された合コンの会場は、よくある居酒屋チェーン店のよくある掘りごたつ式のテーブル席だった。
5対5で向かい合って乾杯してからの十数分間、何の動きもなかった。ハズレだな、こりゃ。と思ったとき。
「席替えターイム!」
おい。そんなことしても無意味だろ、幹事さん。たぶん私以外にも同じツッコミをした人が居るはずだ。
だが。
有無を言わさず、くじ引きで席替えは強行された。
私は左端、木製の壁の横。そして隣に座ったのがルリカさん。
…。
ほぼ、誰もしゃべらない。鍋がグツグツ煮える音と飲み物のコップがカツンとテーブルに当たる音だけが妙に響いた。
耐えられなくなった私は隣のルリカさんに話しかけた。
「今年の夏、どこか行かれました?」
「あ…。はい、以前から行ってみたかった島があって。」
「へえ、私も島に行ったんですよ、あそこにある」
窓は無いが、大体の方角を指さした。
「大きな橋を渡って。」
「え、そうなんですか、私もあの島ですよ。」
「島のどの辺に?」
「初日は遊園地へ行って温泉のあるホテルで一泊。翌日は山の中腹にある美術館と、頂上近くの大きな湖のある公園に行って帰りました。」
「…それ、いつでした?」
彼女に訊いた日時は、完璧に私と一緒。
「え!そうなんですか?」
「ええ。すれ違ってるかもしれませんね。」
「うわあ、絶対そうですよ。」
…というわけで私たち二人が盛り上がりだしたのを合図にしたかのように合コンの会話が弾み始めた。
左端の壁際に座っている私は、ルリカさんと旅の話をしながらそーっとスカートの左側面だけを捲り上げた。壁のおかげで見えないはずだ。
左足を上にして足を組み、彼女に寄っていく感じで体を右に傾け、太腿の裏側から左手を回してパンティに指を入れ、その部分…あれ?違う所に触れちゃった。
…。
いや、これはこれで。
…。
しばらく指を動かした。
これ…悪くない、かも。
「あ、そうだ、ホテルの温泉で、ルリカさんと同じ名前の女の子に合ったんですよ。」
お尻を弄りながらでも会話は普通に続けた。
「それ、妹かも。」
「え、姉妹で同じ名前とか出来るんですか?あ、漢字が違うとか。」
指先が少しめり込んだ。
「一緒ですよ。」
?
わけ分かんなくて、一瞬だけ左手の指が止まった。
「なんてね、嘘ですよ、うふ。」
「あ、はあ。」
ほじくり再開。
よく分からないわね、この子。でもそれがまた面白い。興味を惹かれた私は、帰りのタクシーに誘った。大体同じ方角のようだったし。