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私の血液は冥王星に似ている
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私の血液は冥王星に似ている-2

素面でいられず、食器棚の下段からぬるいウイスキーの瓶を取り出し、そのまま飲んだ。焼ける様な熱さを喉が感じる。私は少し咳込んだ。

私は、どうすれば良いのだろう。

娘が初めて歩いた時の事を思い出した。それから、手を繋いで公園を散歩した事も。
夜の花火を娘は恐れた。イチゴシロップの甘さを娘は好んだ。碧い瞳の、金髪の少女の人形でよく遊んでいた。
それを。そのすべてを、妻は奪った。私はウイスキーを再び飲んだ。今度は咳込まなかった。深い怒りが胸を焼いた。

初めて妻を見た時、なんと美しいのだろうと思った。よく手入れされた薄茶の長い髪。二重まぶたの魅力的な瞳。私は瞬く間に恋に落ちた。
彼女の事を思う余り、眠れない夜も何度となくあった。

ああ、私はどうすれば良いのだろう。

ウイスキーは空になったが、私はまるで酔いが回らなかった。体だけが多量のアルコールに影響され、断続的に震えた。

あらゆる可能性について検討したが、私はどうやら何も選べない事を悟った。
どうするべきか分らないというよりは、何をしたところで今更無意味であると悟った。
罪は深すぎた。
罰すらなかった。

やがて辿り着いた答えを受け入れた瞬間、突如体が軽くなって、私は宇宙と同化したのではないかと錯覚した。
私の瞳は満月。
私の手の平は銀河。
私の血液は冥王星。

私は立ち上がり、娘の屍を飛び越えた。妻へは一瞥もくれず、私は今こそ私を受け入れてくれる場所へ急いだ。早くしなければ、私までもが崩れてしまう。私は何もかもを放棄して、ベランダへ出た。
「ずるいよ」
それが最期に聞いた妻の声。私は、そうかもしれない、と返事をした。残された妻は何を選ぶのだろうか、と考えた。妻は余りにも巨大なモンスターを体内に宿し、それでも自己を保ち、赦し、慈しみ、生と繋げる事が出来るだろうか。そうまでして、ここにとどまる意味を見出だせるだろうか?

崩れた、この世界で。

そして、私はまるで慈愛に満ちた母に飛び付く様に、遥か彼方のアスファルトの大地目掛けて、手摺を飛び越える。そこに待つ無を私は深く欲した。
思考も。
善悪も。
罪も、
罰も、
正否も、
愛も、
なにもない。
何もないが故の救いの世界へ。

私の体は宙を舞った。


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