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砕 -赤き花、咲乱れ-
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砕 -赤き花、咲乱れ--2

肉が、弾けた。
派手な音を立てて、人の首が木っ端微塵になった。
肉片の殆どは掻き消えたが、幾つかは飛び散って白い陶器や畳を汚す。
障子を赤く染め破いたのは、脳漿かそれとも臓物か。
血生臭いなどと言う言葉では足らない異様な臭いが鼻孔を突く。
サイの頬にもその肉片と鮮血が飛び散った。
そうして飛び散った鮮血は、至る所に小さな赤い花を咲かせる。
ある程度形をなしていた千切れた腸(はらわた)も、床やら天井やらに叩き付けられて赤い花となった。
赤い着物に付着した血はともかく、頬の肉片にさえ彼は気にする様子もなく、その口元に笑みを浮かべていた。
嘲るような、そして、狂気的な笑みだった。
彼は、雇い主の方をゆっくり振り向く。

べちゃり、と己の目の前に飛んだ金貸しの成れの果てを前に、男は思わずえずいていた。
これが人間であったとは到底思えない退紅の塊は、血と体液とで薄暗いこの部屋の中でも異様に照っている。
吐瀉しながらも、痩身の男は青白い顔を上げて笑った。
「はは……やってやった! ざまあみろ、悪徳高利貸しめ! とうとうやってやった!」
興奮気味に己に付着した赤を手拭で拭いつつ、痩身の男は言う。
それから彼はふとサイの視線に気が付いた様子で、低く笑いを漏らした。
「感謝するよ。これは、礼だ。俺の無け無しの……」
男が懐から取り出したぼろ布の包みを、サイは引っ手繰った。
そして何かを言い掛けた男に、サイは口の端を歪めて、人差し指を当てる。

「はは……まさか、冗談だろ? 俺は、雇い主――……」
ただサイは笑った。
その赤い狂気の浮かぶ瞳は、まるで先程までのサイとは別人――男は今になって先程のサイの言葉を思い出していた。

――後悔はしないか?
――後のことは、知らないぞ。

歪んだ笑みを唇に浮かべ、サイは人指し指を男の額に当てた。
無情なる一言。
「死ね」
肉が弾ける音。
大輪の紅い花が、咲いた。


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