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bitter bitter sweet
【コメディ 恋愛小説】

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♥勝手に浮かんでくる男♥-5







「ありがとうございましたー」


団体客がゾロゾロと店を出て行くのを、頭を下げて見送った。


スポ少辺りだろうか、野球のユニフォームを着た少年達とお母さん達の姿が店を後にする。


どことなく熱気も一気に引いて行ったような気がして、あたし達スタッフはホッと小さく息を吐いた。


大量のテイクアウトの注文をこなした後は、ドリンクやコーヒー豆、フードの補充作業になる。


あたしと小夜さんが、カウンター内でレジ対応しながら補充作業、店長がフロアを担当して、それぞれがセカセカと動き回っていた。


忙しいのはありがたい。余計なことを考えずに済むからだ。


そうでもしないと、あの夜の事が何度もフラッシュバックしてしまう。


来週の水曜、すなわち今日、パパはママ以外の女と「スプレンディード・ガーデン・ホテル」に泊まる。


考えたくないのに、また頭にあの夜のパパの声がよぎって、ショーケースのケーキを補充しながら眉間に力が入った。


あの会話を聞いてしまった次の日のパパは、恐ろしくいつも通りだった。


寝不足なんて微塵も感じさせない、爽やかでダンディで、バリッとスーツを着こなしながらリビングで新聞を読むパパ。


その姿はあまりにも普段通り過ぎて、夢だとさえ思った。


でも次の瞬間、やっぱりあれは夢なんかじゃないと、あたしを現実に引き戻す言葉をパパは口から放った。


「瞳子、悪いが来週の水曜、出張で泊まりになった」


新聞を畳んでテーブルに置きながら、ママにそう言うパパ。


あたしの身体がビクッと強張ったことを、彼は気付いていない。


「あら、そうなの? 随分急だわね」


「ああ、部下がちょっとやらかしてしまってね、オレが直接謝りに行かなきゃ行けなくなったんだ」


「そう……残念ね。来週、お祝いしようと思ってたのに」


「お祝い?」


「ほら、里穂の誕生日でしょう? あなたの帰りが早かったら、どこか外食でも、と思っていたんだけど」


その時、パパの瞳が初めて泳いだのを、あたしは見逃さなかった。




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