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《夏休みは始まった》
【鬼畜 官能小説】

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〈戻れない夏〉-8

「誰でも知ってる旅館なんてつまんなくない?フフフ…それにあの時なんか直感が働いたのよ。「ビビッと来た」ってヤツ?まあ、なんでも直感って大切よ」


麻衣は指を二本立ててタバコを吸う真似をして、悪戯っぽく笑ってみせた。

実のところは麻衣も到着した直後は“ミスチョイス”を悔いていた。
しかし、思いがけなく結果オーライとなった事が嬉しく、そしてそんな軽薄な自分が少し恥ずかしくもなっていた。


「あの…麻衣さんて恋愛も直感なの?やっぱり直感でビビッて来ちゃうの?」

「ま〜た里奈の恋愛相談が始まったあ。キュンッて来てビビッて来るのが恋じゃない?」


奈々未の冷やかしにも里奈の表情は真剣だ。
なんとなれば今回の目的の第一位は、麻衣の恋愛スキルを聞き出して、自分の糧とする事なのだから。


「ん〜……直感の後に深呼吸して、一旦落ち着いてからじっくり考える…かしら?告る時から〈好き好きオーラ〉出しすぎると足下見られちゃうわよ」

「え〜?だって好きだから告白するのに……そんな…難しいよ……」

「相変わらず里奈ってピュアねえ。きっと里奈って付き合ってからも「好き好き大好き」って尽くしちゃうタイプなんでしょ。だから他に彼女作られるのよ。『コイツは俺に惚れてる』って彼氏に安心されちゃってんのよ」


何度も聞かされた「浮気された」の原因は、里奈の男の見る目の無さと、うざったいくらいに尽くしてしまう真っ直ぐさにあると、三人はとうに分かっている。
分かっていて諭しても尚、里奈の生来の性格はなかなか変わらなかった。
いや、変われないのだ。






いわゆる〈尽くすタイプ〉の里奈は、どうしてもあれやこれやと手を差し伸べてしまう。
大好きな彼氏の為に自発的に行動する事に幸福を感じてしまい、未だに良い塩梅の“止め具合”が分からなかったのだ。


「で…でも奈々未さんだって告る時「貴方が好き」って気持ちは出ちゃうでしょ?もし付き合えたら、やっぱり「大好き!」って気持ちが態度に出ちゃうんじゃないの?」

「私は……あまり簡単に好きにならないから。その人がどんな人か理解してからじゃないと無理。そんな「好き好き」って自分からは行かないかなあ?」

「………」


真夏は微笑むとも哀しむともつかぬ表情のまま、外の景色を眺めていた。

奈々未に自分の気持ちを打ち明けてから、もう三ヶ月が過ぎた。
「もう少し時間を頂戴」と言われてから、ずっと真夏は答えを待ち続けていた。


(……自分の気持ちだけ一方的に伝えたって……)


恋愛話をしている最中に時折吐いて出る冷めた言葉は、きっと自分に対して向けられた思いの欠片……真夏は奈々未の顔を見られなくなり、しかし、そっぽを向く訳にもいかず、いよいよ熱を帯びて話し出した麻衣と里奈の二人をぼんやりと眺めるしかなかった。





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