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〈気配〉
【SF 官能小説】

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裏側-1

 目覚めた、と言うべきかどうかは分からない。
 天井に押しつぶされ、体が裏返った時、私は全ての感覚を失った。
 でも、今は指先に固く冷たい床の感触がある。私が居るのは薄暗い場所だと分かるし、少々生暖かい空気の流れを感じるし、よく分からない軋みが聞こえてくる。
 やはり目覚めたのだ、知らない場所で。
 私は上半身を起こした。
 広い。ハリウッド映画に出てくる豪邸みたいに。
 無意味としか思えないほど大きなエントランス空間には螺旋階段が絡み付き、見上げれば後ろへ倒れてしまいそうなぐらい天井は高い。
 「どこなの、ここは…。」
 思わず疑問が口から零れた。答える者は居ない。
 じっとしていても何も解決しそうにないので、とりあえず立ち上がり、出入り口とおぼしき扉へと向かった。
 押した。引いた。二回叩いた。少し蹴った。もう一度強く叩いた。さらにもう一度。
 ひ、ひ、という音が聞こえてきた。それは私の泣き声だった。
 「何何何?何だって言うのよ。ワケ分かんないよ、こんな…。」
 閉じられた扉に背を向けてもたれ、為す術もなく泣いた。
 「!」
 私はエントランスの奥に視線を飛ばした。
 「誰?いえ…何?」
 それはスー、っと滑るように近づいてきた。
 私は顔を引きつらせて逃げようとしたが、怖くて体が動かない。いや、動いたとしても開かない扉を背負っていては逃げようが無い。
 〈気配〉は私の様子を窺うようにしばらく周囲を浮遊していた。
 そして、おそるおそるといった調子で私のTシャツの裾から侵入し、ブラをしていない胸の膨らみをフワ、っと撫でた。
 「…。」
 声も出せない。恐怖もあるが、初めての感覚に戸惑い、どうしていいか分からないのだ。自分以外の誰かにそんな所を撫でられた事なんて無かったのだから。
 ひとしきり私の胸を撫でまわした〈気配〉は、コリコリに硬くなってしまった敏感な先端に、そっと擦るような刺激を与えてきた。
 「ん…んん…あは…あ…。」
 強烈な快感が胸に走った。抑えることが出来ず、声が漏れた。すると、それを感じた〈気配〉は勢いづいた様にカリカリっと引っ掻いてきた。
 「んあ!あはあぁ…そんな…とこ…ああ!やめ…て…よ…。やめて!」
 ピタリ、と止まった。戸惑った様に私を見つめ、〈気配〉はフ、と消えた。
 私は、いつの間にかギュっと力が入っていた肩の力を抜き、ハア、と息をついた。
 何だったんだろう、今のは。姿は全く見えなかったし、空気が纏わりついてくる様な感触しか無かった。なのに、刺激だけはしっかりと伝わってきた。私のカラダのどこが感じるのか知っているかのようにピンポイントで。
 ここにいる限りまた遭遇するのだろうか。おそらくそうだろう。その時私はどう対処すればいいのだろう。逃げれそうにはない。なにせ、〈気配〉しかないのだから。ならばどうする?
 触られている時、攻撃ポイントをずらそうと体をくねらせてみたのだが、ピッタリ追従してきた。まるで私の動きが分かっているかのように。手振れ防止機能搭載?…ふざけている場合じゃないわね。それに、追従というよりシンクロしてる感じだった。だから、避けるのもたぶん無理。
 結局、纏わりつかれて弄られ放題に刺激され、ムリヤリ与えられる快感に悦びの声を漏らすしかないのか、私の意思とは無関係に。まあ、キモチよかったけど…。じゃなくて!またされたどうしたらいいんだろう。
 「ん?」
 視界の隅に突然明かりが灯った。二階だ。螺旋階段を上がりきってすぐの所。
 「あの…。」
 誰かいるのだろうか。
 「あの!」
 …。
 返事はない。しかし、行くしかない、と何故か私には分かっていた。


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