投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

「ガラパゴス・ファミリー」
【近親相姦 官能小説】

「ガラパゴス・ファミリー」の最初へ 「ガラパゴス・ファミリー」 103 「ガラパゴス・ファミリー」 105 「ガラパゴス・ファミリー」の最後へ

前章(四)〜惜別T〜-21

「此れが、嘩尼爾拉の種を浸けた菜種油です。茶色の瓶の方が香りが立つ上、日持ちするんですよ。」
「成程。それで牛乳瓶を。」
「ええ。一回に、ほんの少量しか使わないもので、此の瓶が一番、具合が良いんです。」

 見ると、瓶底に胡麻粒大の種が、澱の様に溜まっているのが伺えた。

「此の鞘、一つで伍圓位するんですよ。」
「ご、伍圓も!?」

 此れには夕子が驚いた。彼女の月の給金が伍拾圓足らずで有るから、凡そ三日分と云う事に為る。

「だ、だったら、此れは幾らに為るんですか!?」

 夕子が、アイスクリンを指し示すと、女給は平然と口にした。

「それ一杯で、壱圓伍拾銭ですよ。」
「い、壱圓って!」

 素うどんが伍銭、天丼が十伍銭と云う値段と比べる迄も無く、篦棒(べらぼう)な金額で有る。夕子は、譫妄(せんもう)したかの如く、声を張り挙げた。
 驚くだけなら未だ良いが、店内で大声を出すのは頂けない。伝一郎は夕子を嗜める様に云った。

「此れには、高価な牛乳や玉子、それに砂糖が使われている上、何より氷が有って初めて成り立つ代物なんだ。
 値段にびっくりする気持ちは判るが、店内で騒ぐのはいけないと、さっきの雨具屋でも云っただろう。」
「す、すいません……。つい。」

 頭に血が昇り、我を忘れて仕出かしてしまった事を、夕子は慚愧する。が、伝一郎の方も改悛の情に駆られていた。
 二人の間に重々しい空気が漂う事を、彼は望んでいなかったので有る。

「いや。僕も、少し強く云い過ぎた。すまなかった。」
「そんな事!……私が、いけなかったんです。」
「此れで話は終りだ。それより、食べようよ。溶けて仕舞っては、それこそ作ってくれた方に失礼だ。」
「は、はい。そうですよね。」

 互いが誤りを赦し合った事で、夕子の瞳に喜びが戻る。一匙、食する毎に顔を綻ばせて喜びを雄辯に語る様子に、伝一郎も嬉しそうだ。

「こうして、君と初めて食を共にした訳だが、何と云おうか、本当に心が安らいで行くよ。」
「えっ?それは、どの様に捉えるべきでしょうか。」
「勿論、誉めてるのさ。一匙毎に見せる嬉しそうな表情に、僕迄、心安らかな気分に為れる。」

 伝一郎の言葉に、見る々と夕子の顔が紅く染まった。

「何だか、恥ずかしいです。食い意地が張ってるみたいで。」
「そう云う意味では無いんだが。」
「でも……姐さま方に、そう云われました。」

 夕子の話では、女給は食事の際、女給同士で一つの卓台に集まって摂るのが日課だそうだが、奉公に就いて間もない頃、その食事の最中に「夕子は、食事中が一番好い顔に為る。」と、揶揄された事が今でも、心の中で蟠っているらしい。
 しかし、伝一郎は、夕子の捉え方を完全に否定した。

「それは違う。姐さま方は僕と同様、親しみを持って云ったんだよ。」
「親しみ……ですか?」

 納得の行かない夕子に、伝一郎は諭す様に言葉を続けて行く。

「そう。親しみだ。君と一番、年が近い重美でも五歳年上だ。厳しく躾ねばと思い乍らも、女学校出立ての君が、妹の様に可愛らしく思えたのだろう。
 僕も同じだ。幸せそうに食事する君の姿に、本心から好いと思えたんだ。」

 此処で漸く、夕子は怪訝な表情を解いて、笑顔に為った。


「ガラパゴス・ファミリー」の最初へ 「ガラパゴス・ファミリー」 103 「ガラパゴス・ファミリー」 105 「ガラパゴス・ファミリー」の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前