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「ガラパゴス・ファミリー」
【近親相姦 官能小説】

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前章(四)〜惜別T〜-20

「実は、私の郷里は東京でして、御爺ちゃんが切り子職人だったんです。その御爺ちゃんが亡くなった際、形見分けとして貰ったんです。」
「そんな大事な物を、私達に?」

 夕子の問い掛けに、女給は答える。

「生前、御爺ちゃんが云ってたんです。どんな立派な器でも、食器として扱ってやらないと、その良さは判らないって。だけど、どうしても使うのが惜しい気がして……。
 でも、御客さん達と出会って、今日こそ、使ってみようと思ったんです。“逢い引きしてる”御客さん達なら、とても御似合いだろうと思って。」

 思いの丈を吐き出した女給は、少し照れ臭く為ったのか、頬が赤い。同じく夕子の方も、臆面も無く“逢い引き”記念と称して特別な扱いをされた事に、とても照れていた。

「有り難う。忘れられない一日に為りそうです。」

 気遣いに礼を云う伝一郎に続き、夕子も「有り難う御座います。」と、御辞儀を返すと、女給は嬉しそうに頷いた。

「私の方こそ。御爺ちゃんの形見を使う切っ掛けを与えて貰えて。」

 夕子は思う──。最初はどうなる事かと心配で堪らなかったけど、今は、こうして暖かい持て成しを受けて、胸が一杯に成る程の幸福感が押し寄せている。
 先刻の日傘も同様、伝一郎様のおかげで“決して忘れられない出来事”を与えて頂き、此の上無い喜びで溢れている。

「早く御食べ。でないと、溶けてしまうよ。」
「あっ!?そ、そうですよね。」

 促されて、夕子は一匙(さじ)掬ってみた。淡黄(たんこう)な色のアイスクリンは、柔らかな感触がした。
 口に入れた瞬間、強烈な冷たさが舌に伝わり、軈て、口溶けと共に甘味と甘い香りが口一杯に広がって行く。
 飲み込む際、喉から胃の腑に掛けて、存在を感じさせる冷たさ。そして鼻孔へと抜ける甘い香りに夕子は、今迄、感じ得た事の無い幸せな気分に成った。

「どうだい?」
「あの……。とても美味しいです。初めて食べたんですけど……何と云うか、例え難い美味しさです。」
「それは良かった。気に入って貰えて、此処に来た甲斐が有ったよ。」
「子供の頃、口にした雪みたいで、ふわっとした物が口の中で溶けて、その後に甘味と香りが広がって……とても美味しいです。」

 喜びを能辯(のうべん)と語る様を、伝一郎は目を細めて聞き入っている。

「香り付けには、※14嘩尼爾拉(わにるら)と呼ばれている種が、使われているそうだよ。」
「御客さん!良く御存知ですねえ。」

 再び、女給が二人の会話に入って来た。
 少し間を置き、再び現れた彼女の両掌には、形状が小豆の鞘に似た涅色(くりいろ)の豆鞘が乗っている。

「此れが、実物の嘩尼爾拉です。」

 女給は、二人の間に腕を伸ばして豆鞘を披露した。甘ったるい香りは近寄る必要が無い位に発散しており、此れがアイスクリンの仄かな甘い香りの素とは、信じ難い位で有る。

「随分と、臭うんですね。」
「此れは、収穫した物を半年程、発酵と乾燥を繰返す事で、此の独特な香りを放つ様に成るんですよ。」
「収穫って、日本で栽培しているんですか?」
「いえ。私も詳しくは知りませんが、亜米利加からの舶来品だと問屋さんは仰有ってました。」

 女給は、我が意を得たりの如く、雄辯と物語って行くが、二人は苦にする様子も無く、聞き役に撤している。

「此の鞘から、胡麻粒位の種を取り出して、三月程、菜種油に浸け込んで、香りの染み込んだ油としてアイスクリンに使うんです。」

 女給は、そう云うと、今度は牛乳が詰めて有っただろう茶色の瓶を、二人の下に持って来た。


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